
林田 壮平(公益財団法人音楽鑑賞振興財団事務局主管/武蔵野音楽大学非常勤講師)
GIGAスクール構想によって1人1台のコンピュータ環境が整備され、これまでには難しかった多様な鑑賞活動を行いやすくなってきました。本稿では、一斉・個別・協働の各学習過程における、「良い音」での鑑賞方法について整理したいと思います。
子どもたちには、できるだけ良い音で音楽を聴いてほしいと願う先生は多いのではないでしょうか。確かに、オーディオ機器を高性能なものにすれば、高音質で十分な音量を確保した環境を整えることができます。しかし、予算の制約を考えると、学校での導入には限界があります。
では、鑑賞活動における良い音の “最低限のレベル” をどのように捉えればよいのでしょうか。ここでは、次の2点が満たされていることが重要だと考えます。
①子どもたちに聴き取らせたい音や音楽を、無理なく聴き取れる音質・音量であること
②その音楽の魅力を十分に感じることができる音質・音量であること
この2つを踏まえて、各学習過程における鑑賞の方法を見ていきます。
従来から行われているように、音楽室などのスピーカーから流れる音楽をクラス全員で聴くスタイルです。スマートフォンなどを使った “個人的な” 音楽鑑賞が一般化している現在では、音楽室のスピーカーで音楽を聴く体験は、子どもたちにとってむしろ貴重なものになりつつあります。
全員で同じ音楽を聴く良さとしては、周りの友だちの反応が自然と目や耳に入ってくることで共感が生まれやすくなったり、逆に自分との感じ方の違いに気付きやすくなったりする点が挙げられます。
また、前方のスピーカーからの音に加え、壁・天井・床からの反響音もあるため、ホールなどでの鑑賞により近い体験となります。耳だけでなく、音の振動を体全体で味わいながら聴けることも、このスタイルの醍醐味です。
これらの特性から、一斉学習での鑑賞は今後も重要な役割を担うと考えられます。しかし、学校によっては音楽室のオーディオ環境が十分ではなく、小さな音しか出なかったり、こもった音になってしまったりして、「聴き取らせたい音や音楽を聴き取れる」「音楽の魅力を十分に感じることができる」音質・音量を確保できない場合があり、環境整備が課題となります。
また、指導者用コンピュータの普及により、コンピュータで音源を再生する場面も増えます。音質・音量の面では、音楽室のオーディオ機器に接続して再生することが望まれます。接続方法には、HDMIケーブルでAVアンプにつなぐ、Bluetoothでレシーバーに接続する、コンピュータのヘッドホンジャック(またはラインアウト)から音声ケーブルでつなぐなどがあります。
ただし、コンピュータによってはヘッドホンジャック接続では十分な音質・音量が得られない場合もありますので、事前の確認が大切です。また、Bluetoothは電波干渉に弱い面があり、環境によっては音の途切れやノイズが生じることがありますので、こちらも注意が必要です。
指導者用コンピュータとオーディオ機器の接続例を下図に示します。
1人1台端末の普及により、子どもたちは “自分専用のプレーヤー” を手にしたともいえます。これは音楽科教育にとって画期的なことでした。コンピュータを使った音楽の授業では、音楽づくりや創作での活用が注目されがちですが、それらも音を再生できる環境があってこそ成立するものです。
一斉授業での鑑賞に比べ、個別学習での鑑賞では、自分の聴きたい部分に焦点を当てたり、何度も繰り返して聴いたりといった “能動的な鑑賞” ができることが大きな利点です。
一方で、課題として挙げられるのが音質・音量の問題です。コンピュータ内蔵スピーカーで鑑賞している授業を見かけることがありますが、教室内で子どもたちが別々に音楽を再生している状況でも、音源によっては特徴を聴き取ることはできます。しかし、音楽の魅力を十分に感じることができるかというと難しい場合が多くなると思います。例えば「強弱」に着目して聴く場合、内蔵スピーカーでも変化自体は分かりますが、弱い音が聴こえにくかったり、強い音の迫力が不足したりすると、音楽の魅力に迫る鑑賞にはつながりにくくなります。
こうした点を補うには、イヤホンやヘッドホンを活用する方法が有効です。ただし、これらの機器には様々な種類があり、音質・音量の面で十分でないものもあります。使用するコンピュータとの組み合わせも含めて、授業のねらいを達成できるかどうか、事前の確認が大切です。
イヤホンやヘッドホンを導入する場合は、安全面にも十分配慮する必要があります。急に大きな音が流れて耳を痛めないように、接続した際はコンピュータの音量を下げておく、音量を上げすぎない、装着したまま立ち上がったり動き回ったりしないといったルールづくりが重要です。複数人で使いまわす場合は、消毒など衛生面の配慮も必要でしょう。
また、イヤホンやヘッドホンを使うと、「子どもたちがどこを聴いているのかを把握しにくい」という声もあります。この点は、タイムバーなどの映像付き音源を活用することで改善できます。
音鑑発行「DVDブック事例集⑤ 実践しよう!鑑賞の授業このタイムバーの例では、音楽の再生に合わせて、画面上部灰色のバーが右に向かって伸びていきます。どこを再生しているのかを視覚的に確認することができます。
音鑑では、ICTを活用した音楽鑑賞授業の一助として、Microsoft PowerPoint を使ったタイムバー音源作成の研修会に講師を派遣しています。ぜひご活用ください。
協働学習の場面で、グループのメンバー全員で一つの音源を鑑賞する場合、基本的な考え方は個別学習と大きく変わりません。
このような活動では、「スプリッタ(分配器)」を使用することがあります。イヤホンやヘッドホンを使って複数人で鑑賞できる便利な機器ですが、電源供給のない「パッシブスプリッタ」を使用する際には注意が必要です。接続するイヤホン・ヘッドホンの数が増えるほど、十分な電流が流れず、音質や音量が低下する場合があるためです。そのため、スプリッタを使用する際にも、事前の音質・音量チェックは欠かせません。
パッシブスプリッタの例
一斉学習での全員鑑賞と、個別学習での個別鑑賞には、それぞれに良い点と注意点があります。どちらかが優れているということではなく、授業の目的に応じて適切な方法を選択することが大切です。
ただし、機器の音質・音量は学習活動に大きく影響します。「端末を使って個別学習で鑑賞させたいが、学校の環境では十分に聴き取れず、音楽的な魅力も感じにくいかもしれない」と判断される場合には、授業設計自体を見直す必要があるかもしれません。
個別学習や協働学習での鑑賞の可能性が広がる一方で、イヤホンやヘッドホン、スプリッタなどを揃えるには費用がかかるため、導入を迷われる先生もいらっしゃると思います。100円ショップなどで廉価なイヤホンを購入して工夫している、というお話を伺うこともあります。
音鑑では助成事業をリニューアルし、2026年度からは教師の授業実践を募集します。入選者の勤務校には、鑑賞環境の充実を願い、1クラス分のヘッドホンを贈呈します。ぜひご活用いただければと思います。
季刊「音楽鑑賞教育」Vol.65(2026年4月号)