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音鑑研究委員の先生による鑑賞授業 STEP UP!: 「感じて」「動いて」「伝え合う」小学1年生の鑑賞授業 ~『ラデツキー行進曲』を教材とした授業実践~

タイトル

著者

清水 達也(東京都港区⽴⿇布⼩学校指導教諭)

子どもの学びの特性に寄り添う

前回は、研究委員の安部文江先生が「小学校の学びを基盤に、中学校での学びをどう構想するか」という視点から、『ハンガリー舞曲第5番』を用いた実践を紹介しました。

今回は、『ラデツキー行進曲』を教材として扱った事例 をもとに、音楽の特徴を言葉で分析的に捉えることはまだ難しい小学1年生が、音楽の特徴に感覚的に気付き、曲の楽しさや面白さに出会い、音楽を味わって聴く学びが深まっていく様子を紹介します。

※『よくわかる! 音楽鑑賞の授業づくり2 小学校・中学校 学習評価編(事例集)』(2025年3月刊行)

1. 小学1年生の感覚に寄り添った題材構想

小学1年生の児童は、旋律や拍、強弱、反復といった音楽を形づくっている要素を、体を動かしながら楽しく感じ取り、音楽の楽しさや面白さを感覚的に味わっていくことができます。

本題材では、そうした学びの特性に寄り添いながら、曲がもつよさや楽しさに自然と出会えるような学びの流れを構想しました。

体を動かす活動から入る

まずは、音楽に合わせて指打ちや手拍子をする活動を通して、旋律や拍、強弱などに体で反応します。その後、友だちと気付いたことを伝え合いながら理解を深めていきます。さらに、ドラムマーチや手拍子が加えられた音源、演奏映像の視聴などを段階的に取り入れることで、反復や構成など、音楽を形づくっている要素に感覚的に気付き、曲全体を味わって聴く姿へとつなげていくことをねらいとしています。

一つひとつの活動を細かく区切る

1年生の児童は、教師の発問や指示、一つひとつの活動を細かく区切ることで、集中して活動に取り組むことができます。教師が教え込むのではなく、対話から様々なことに気付き、その気付きを次の鑑賞活動につなげていくということが重要です。

体を動かしながら音楽を聴いて感じたことを自分なりの言葉で表現し、他者とやりとりすることで学びが深まっていくような題材を構成することは、鑑賞の学習における大切な出発点であると考えています。

2. 教材分析について

まずは、『ラデツキー行進曲』の教材分析です。私が分析した主な特徴は以下の通りです。

『ラデツキー行進曲』の主な特徴

  • ABAの曲の構成が聴いて分かりやすく、低学年の児童が体を動かす活動を行いながら音楽の特徴に気付き、音楽の楽しさを見いだして聴くのに適した教材である。
  • ドラムマーチや手拍子付きなど、同じ曲でも様々な編曲があり、聴き比べて違いを見つけ、それぞれのよさに気付かせることもできる。
  • 実際の演奏会でも観客が曲の強弱に合わせて手拍子をしており、児童の活動とつながりをもたせやすい。
  • 旋律が反復されるごとに p から f、p から ff など急激な強弱の変化がある。

図1は、曲の構成を主題の旋律の反復と強弱の変化で整理したものです。授業ではこれらを分析的に聴くのではなく、指打ちなどの体の動きを通して、感覚的に気付くようにしていきます。また、児童が曲の構成を捉えやすくするために、「A→B→A」を「はじめ→なか→おわり」として提示します。さらに、旋律アの前奏を「用意」、旋律ウの前奏を「つなぎ」とすることで、旋律の変わり目に気付き、A、Bそれぞれの特徴に合う体の動きを工夫できるようにします。

図1 『ラデツキー行進曲』の曲の構成
3. 題材で取り扱う音楽を形づくっている要素の絞り込みと教材(音源、映像)の選定

『ラデツキー行進曲』はオーケストラの音楽のため、音色やリズムも扱う要素として考えられますが、本題材では1年生の児童が体の動きを通して感じ取りやすい要素として、旋律、強弱、拍、反復に絞り込みました。体を動かす活動を繰り返すことで、旋律の特徴とその反復にも気付くようにしました。

音楽鑑賞指導で最も重要なことは、指導のねらいに最適な音源を教材にすることです。

〇 本題材における教材(音源、映像)選択
  • 体の動きを通して強弱の変化や旋律の反復を聴き取るため、複数の音源を聴き比べ、それらが聴き取りやすい音源を選択しました。
  • 授業では、曲のある部分を複数回聴くこともあるので、分割音源を用意しました。
  • 演奏の楽しさを味わわせるために、ドラムマーチや手拍子が加えられた演奏動画を使用しました。指揮者とオーケストラの演奏の様子や観客が手拍子をしながらコンサートを楽しむ様子を視聴することで、子どもたちがこの曲の魅力をより実感できるようにします。
  • この曲は、ニューイヤーコンサートのアンコールで定番として演奏されることから、多くの映像が残されています。それぞれの映像は、指揮者や演奏、観客の様子など映し出される視点が異なるため、児童が演奏と手拍子に注目しやすいものを選択することが重要です。
〈実践〉小学校 第1学年
題材名

こうしんきょくのたのしさをかんじながらきこう

教材
  • 『ラデツキー行進曲』(ヨハンシュトラウス(父)作曲)
題材の目標
  1. 曲想と旋律、強弱、拍、反復などとの関わりについて気付く。
  2. 旋律、強弱、拍、反復を聴き取り、それらの働きが生み出すよさや面白さ、美しさを感じ取りながら、聴き取ったことと感じ取ったこととの関わりについて考え、曲や演奏の楽しさを見いだし、曲全体を味わって聴く。
  3. 体を動かしながら音楽を聴いたり、友だちと気付きを交流して曲のよさや楽しさを見いだしたりする学習に進んで取り組み、行進曲に親しむ。
取り扱う音楽を形づくっている要素

(題材で主に取り扱うものを赤字表記)

本題材では、第1時にに合わせて指打ちをしながら繰り返し音楽を聴いたり、友だちと気付きを共有しながら強弱旋律の特徴に合わせて指の打ち方を工夫したりする。

第2時では、手拍子や行進しながら音楽を繰り返し聴き、音楽の特徴に合わせて動きの工夫をしたり、演奏の様子を視聴したりする。体を動かしながら聴く活動や対話的な学習を通して、曲想と旋律強弱反復など音楽の構造との関わりについて気付くようにする。

指導計画(全2時間)

(〇 学習内容 ● 主な学習活動)

第1時

○ 体を動かして聴く活動を通して、『ラデツキー行進曲』の曲想と旋律、強弱、拍、反復との関わりに気付く。

● 「はじめ」の部分を手拍子や指打ちをしながら聴く。

★「指打ち」について

ここでの「指打ち」は、指で拍を打つことを表しています。手拍子の場合、学級全体で活動すると音が大きくなり音楽が聴こえにくくなってしまうことがありますが、指打ちの場合はそのようなことがありません。また、指打ちでは、打つ指の本数や指打ちの動作の大きさを工夫することで強弱の変化を表すので、手拍子に比べて児童が強弱や曲想の変化を感じ取っているか見取りやすい面もあります。

● 「はじめ」の部分を強弱に合わせて指打ちしながら聴き、工夫したことについて伝え合う。

● 「なか」の部分を指打ちしながら聴き、強弱の変化や旋律の特徴を感じ取る。

● 全曲を通して聴き、反復に気付く。

● 指打ちしながら全曲を通して聴き、強弱の変化や旋律の特徴を感じ取る。

第2時

○ 体を動かしながら聴いたり、動きを工夫したりする活動を通して、『ラデツキー行進曲』の曲の楽しさを見いだし、曲全体を味わって聴く。

● 音楽に合わせて行進し、旋律や強弱に合う動きを工夫する。

● どのような工夫をしたか、互いに伝え合う。

● 『ラデツキー行進曲』(ドラムマーチ・手拍子付き)」を聴き、旋律の特徴や強弱の変化に合わせて手拍子の打ち方を工夫する。

● 『ラデツキー行進曲』の楽しいと思うところやその理由を見つけてワークシートに記入する。

ワークシートの工夫

ここのワークシートは、文章を書く欄と上記のマーク欄で構成しています。自分の書いた文章を読み返し、マークに○印をつけることで、何について書いたのか、理解したり確認したりすることができるようにしています。低学年時からこのような活動を行うことで、中学年以降、聴き取ったことと感じ取ったことを分けて書くことにつなげていきます。なお、マークは、児童の思考・判断のよりどころとなる音楽を形づくっている要素を基本としていますが、児童が記入する内容について教師が想定して付け加えたり減らしたりすることが重要です。

ワークシートをどのように読み取るのか

語彙の少ない1年生の記述内容をどのように読み取るかについては、悩みが尽きないものです。ここでは、児童が書いたワークシートを例に挙げどのような読み取りをしたか紹介します。

このワークシートの読み取り

本児童は、強弱の変化と楽器の音色の変化を関連付けて書くことができています。本児童は第1時から「音が弱いときは楽器がとおくにあるの?」といった発言を繰り返していました。最後の文章「ほんとにがっきのそばにいるとおもいました」の「ほんとに」は、児童が聴いて実感したことから出てきています。このように低学年児童(特に1年生)は、ワークシートに書かれている文章だけで判断するのではなく、これまでの活動の中の発言やつぶやき、行動などを丁寧に見取り、総合的に判断していくことも重要です。

このワークシートの読み取り

本児童は、強弱の変化や旋律の特徴を捉えて、自分がどのように行進を工夫したかについて詳しく書いています。また、行進を工夫する活動では、「なか」の部分を工夫した理由について、「ゆっくりすべっている感じがしたから」と発言していました。これらの状況を総合的に判断し、Aとしました。このように低学年児童(特に1年生)は、活動したことをワークシートに書くことがありますが、語彙が少なくワークシートの文章だけでは判断できない場合もあります。そこで、教師は注意深く文章を読み解くとともに活動の様子や発言内容と合わせて判断することが重要になります。

おわりに

1年生の児童は、体を動かしながら音楽を聴くことで、旋律や強弱、拍などの変化を自然と感じ取り、音楽の楽しさを実感していました。活動の中でこぼれるつぶやきや表情から、その小さな「気付き」が「確かな学び」へとつながっていることに気付かされます。

鑑賞の授業は、ただ音楽を聴くだけでなく、子どもたちが音楽と出会い、自分なりの感じ方を育む大切な時間です。これからも、音楽のもつ力を信じ、子どもたちの心に残る学びの場をつくっていきたいと思います。

掲載号

季刊「音楽鑑賞教育」Vol.63(2025年10月号)

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