
小川 大輔(広島県三原市立幸崎中学校教諭)
教育課程企画特別部会の論点整理が、9月(2025年)に文部科学省から示され、次期学習指導要領の方向性が少しずつ見えてきています。しかし、現行の学習指導要領が求めることを今一度しっかり理解しておくことは重要です。今回は、その中から中学校音楽科における指導事項に応じた指導のあり方について考えていきたいと思います。
授業を構想していく際、学習指導要領のどの指導事項を指導するかを考えることが大切です。鑑賞の指導事項は以下の通りです。
鑑賞の指導事項(中学校第2学年及び第3学年)
授業では、指導事項 ア(ア)~(ウ) から1つ以上と イ(ア)~(ウ) から1つ以上の組み合わせ方によって多様な指導内容が生まれます(表1)。この表1はあくまでも例ですので、生徒に身に付けさせたい力の設定によって様々な指導が可能です。
| ア(ア) 曲や演奏 |
ア(イ) 生活や社会 |
ア(ウ) 共通・固有 |
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|---|---|---|---|
| イ(ア) 曲想と構造 |
『春』/『魔王』/『六段の調』/雅楽『越天楽』/『交響曲第5番ハ短調』/『ボレロ』 | 『ジョーズのテーマ』/『ブルタバ』 | 「様々なギターの表現」 |
| イ(イ) 背景関わり |
オペラ『アイーダ』/歌舞伎『勧進帳』 | 「郷土の音楽」/「ポピュラー音楽」 | 「日本の民謡」/「様々な総合芸術」 |
| イ(ウ) 多様性 |
「日本の民謡」 | 「アジアの諸民族の音楽」/「世界の諸民族の歌」 |
表1 指導事項と教材曲の例
例えば、ア(ア)×イ(ア) で指導する『六段の調』は、日本の文化との関わりの学習を踏まえれば ア(ア)×イ(イ) の指導も考えられます。また、ア(イ)×イ(ア) で指導する『ブルタバ』は、音楽そのものの魅力に焦点化すれば、ア(ア)×イ(ア) の指導も考えられます。
1つの教材曲でも、どの指導事項を指導するかによって、指導の仕方が変わります。そこで、授業者がこの教材を通して、生徒にどのような力を付けたいかを明確にすることが重要です。
では、教材曲『ボレロ』を例に、指導事項を変えると授業がどう変わるか、3つの具体的な事例を紹介していきます。『ボレロ』は楽曲そのものの魅力に加え、バレエ音楽としての側面ももつため、多様な指導が可能な楽曲です。そこで、
事例① 楽曲そのものの学習
事例② バレエ音楽との関わりの学習
事例③ 多様なバレエ音楽の学習
として、授業を組み立てます。
ラヴェルが語ったとされる「この曲は壮大な実験である」という言葉をヒントに、楽曲『ボレロ』のもつ魅力について考えさせたい。楽曲の特徴としては、ボレロの一定のリズム、長い強弱変化、様々な楽器の重なりによるテクスチュアの多彩さに着目させていきたい。
ラヴェルが仕掛けた『ボレロ』の音楽の魅力とは?
『ボレロ』のリズムや強弱、テクスチュアを理解するとともに、曲や演奏に対する評価とその根拠について考え、『ボレロ』のよさや美しさを味わって聴き、音楽に親しんでいく態度を養う。
🎶 『ボレロ』(ラヴェル作曲)
| 時 | 学習内容 |
|---|---|
| 1 |
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| 2 |
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2時間目の最後に生徒が書いた紹介文例
『ボレロ』は、最初フルート1つで演奏され、最後になるにつれ、楽器が多くなっていく音楽です。最初のフルートは、優しく落ち着いた感じですが、最後はテクスチュアも厚くなり、強弱も強くなって、迫力を感じます。
私は特にテクスチュアが面白いと思いました。9回目は、ピッコロがとても不協和音で苦手だったのに、17回目を聴いたときは、少し苦手な音もあったけど、いろんな楽器の音色がとてもきれいに重なっていて驚きました。
音の組み合わせでこんなにも感じ方が変わるのが、とても面白いと思います。
身体芸術としてのバレエと『ボレロ』の音楽が密接に関わる魅力に気付かせたい。1時間目で曲の特徴を、2時間目で曲の特徴とバレエの踊りの特徴との関わりに着目させていきたい。
音楽の特徴と他の芸術との関わりを理解し、『ボレロ』のよさや美しさを味わおう
『ボレロ』の曲想と音楽の構造との関わりを理解するとともに、音楽の特徴とその背景となるバレエとの関わりについて考え、『ボレロ』のよさや美しさを味わって聴き、バレエ音楽に親しんでいく態度を養う。
🎶 バレエ『ボレロ』(ラヴェル作曲/モーリス・ベジャール振付)
| 時 | 学習内容 |
|---|---|
| 1 |
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| 2 |
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2時間目の最後に生徒が書いた紹介文例
『ボレロ』は、最初から最後まで、たった2つの旋律が交互に何度も繰り返されているだけなのに、どんどん曲に引きこまれる。楽器の組み合わせ方によって聴こえ方が違い、聴いている人が飽きないからだと思う。全体を通して考えると、初めは少ない楽器でとても弱く演奏され、だんだん楽器が増え、音も強くなって盛り上がっていった。
バレエを見ると、人数がだんだん増え、動きもシンプルなものからだんだん激しくなっていき、音楽と一体化していた。バレエ音楽でなかったら、ラヴェルは同じ旋律やリズムで曲を作ろうとは思わなかったと思う。バレエも音楽とピッタリ合っていて、音楽がなければ、この踊りは成り立たないと思った。
時代とともに変化する多様なバレエ音楽の表現に気付かせたい。クラッシックバレエ『白鳥の湖』、モダンバレエ『春の祭典』『ボレロ』の時代的な流れとともに、音楽と踊りの両面の面白さを感じさせたい(※モダンバレエの定義には諸説あり)。曲の特徴としては、『白鳥の湖』は旋律や強弱、『春の祭典』は不協和音やリズム、『ボレロ』は強弱やリズム、テクスチュアに着目させていきたい。
多様なバレエ音楽の共通性や固有性について考えよう
『ボレロ』『白鳥の湖』『春の祭典』の音楽の特徴と、その背景となる文化や歴史、他の芸術との関わりについて理解するとともに、音楽表現の共通性や固有性について考え、『ボレロ』『白鳥の湖』『春の祭典』のよさや美しさを味わって聴き、時代とともに変化し続けるバレエ音楽に親しむ態度を養う。
🎶 バレエ『ボレロ』(ラヴェル作曲)
🎶 バレエ『白鳥の湖』より『フィナーレ』(チャイコフスキー作曲)
🎶 バレエ『春の祭典』より『序奏~春の兆し』(ストラヴィンスキー作曲)
| 時 | 学習内容 |
|---|---|
| 1 |
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| 2 |
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2時間目の最後に生徒が書いた紹介文例
3つのバレエ音楽を見たり、聴いたりして比べてみて、同じバレエでありながら、全く踊りや音楽が違っていて面白いと思いました。
『ボレロ』は音楽が盛り上がっていくにつれて、踊る人数も増えていき、よりボレロの世界に引き込まれるような感じがしました。また『白鳥の湖』では、戦いのシーンで『情景』のメロディーが短調から長調に変わり、敵に勝利したことが音楽と踊りの両方から感じ取ることができました。さらに『春の祭典』では、不協和音によって恐怖を感じたり、斬新なリズムに合わせて音楽に身を任せて踊っていたりして、バレエっぽくない音楽や踊りに面白さを感じました。
私は『白鳥の湖』が好きです。ですが、『ボレロ』や『春の祭典』は現代の音楽シーンやダンスにも通じるものがあり、様々な音楽の形があると再認識しました。
指導事項の設定を変えた3つの事例を紹介しましたが、指導事項を設定する時には、2種類の方向が考えられます。
1つ目は「指導事項から曲を考える」場合。これは「ア(イ)×イ(ウ) を指導したい → 生活や社会との関わりが深い『日本の民謡』を扱おう」という思考の流れです。2つ目は「曲から指導事項を考える」場合。これは「オペラ『アイーダ』を扱いたい → 総合芸術としての文化や歴史との関わりを踏まえたア(ア)×イ(イ) として指導しよう」という思考の流れです。どちらの方向で考えるにしても、生徒にどのような力を付けたいかを意識することが大切です。
「指導事項」というと、とかく難しく聞こえますが、実は授業のアイディアを広げるのに便利なツールともいえます。今回紹介したように、1つの教材曲から多様な授業が構想できます。3つの紹介文例からも、生徒が同じ『ボレロ』を学習していても、指導事項によって着目する視点が大きく変わり、学びが変わることが分かります。
なお、これらの事例に優劣はありません。〈事例①〉のように、楽曲を深く味わわせる指導も、〈事例②〉や〈事例③〉のように他の芸術との関わりを通じて幅広く音楽を捉えさせる指導も、すべて生徒に付けたい力につながります。目の前の生徒の実態や年間カリキュラム全体のバランスを見ながら、今、必要とする指導内容を柔軟に決定していくことが、私たち教員に求められています。
指導事項を意識した授業づくりは、授業者がワクワクするような構想を生み出すきっかけとなります。今回事例としては示せませんでしたが、生活や社会における音楽の意味や役割を考える ア( イ) の指導も面白いかもしれません(例:昔の王族・貴族の生活とバレエ音楽、現代のダンスシーンとバレエの関連など)。
このようにアイディアは無限に広がります。指導事項をきっかけに、生徒とともに学びを深めるワクワクする授業づくりを進めていきましょう。
季刊「音楽鑑賞教育」Vol.64(2026年1月号)