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教材発見 形式〈ロンド形式のご先祖さま〉
バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV.1042 第3楽章

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このコンテンツは月刊「音楽鑑賞教育」掲載記事のアーカイブです。執筆当時の時代背景、表現、考えに基づいた記事であることをご了承の上、ご利用ください。記事に対するご意見やお問い合わせは音鑑事務局にお願いします。

渡邊 學而(音楽評論家)
月刊「音楽鑑賞教育」2007年8月号掲載

古典派の時代に確立したロンド形式のご先祖さまは、中世の時代の世俗音楽のひとつである、ロンド――Rondeau という踊り歌である、といってもよい。これは大勢集まって踊りながら歌う歌だが、全員で歌う部分(これを Rondeau ロンドーといっている)と、1人で歌う部分(これを Couplet クープレといっている)が交互に出てくる形をとっている。

たとえば、全員の合唱Aで、「恋をしている人は、みんなこっちへ来て、踊ろう」と歌うと、次にBの独唱者が、「3丁目の花子さんは、恋をしているから、おいで」と歌い、そのあとすぐに全員でAを繰り返し歌う。次に、Cの独唱者が、「隣村の太郎ちゃんは、恋をしていないから、だめよ」と歌うと、ふたたび全員でAを歌っていく、という形である。だから、これを図に描くと、

A(合唱)~B(独唱)~A(合唱)~C(独唱)~A(合唱)~D(独唱)…

となり、踊りが終わるまで続けられるのである。

このロンドーという形を器楽音楽の中に採り入れた典型的な例として、バッハヴァイオリン協奏曲第2番の第3楽章を挙げることができる。この楽章は、アレグロ・アッサイ 8分の3拍子で、合奏で演奏されるAは、16小節で、毎回同じものが繰り返される。その間に、独奏ヴァイオリンによるB、C、D、Eが演奏される。このうちB、C、Dは、いずれもやはり16小節だが、Eだけは32小節になっている。これはおそらく、クープレの部分は、これで終わりという意味なのであろう。

この曲はテンポが速いから、1小節を1拍で数えると、小節数は分かりやすいと思う。

これを図に描くと、次のようになる。

A16(合奏)~B16(独奏)~A16(合奏)~C16(独奏)~A16(合奏)~D16(独奏)~A16(合奏)~E32(独奏)~A16(合奏)

なお、調性はいずれもホ長調である。

そして、器楽の場合でも、この形をロンドー Rondeau と呼んでいる。

さて、このロンドーを参考にして、もう少しすっきりとした形にまとめようとしたのが、ロンド形式であるといえよう。まず、主要主題Aに対して、副主題をB、C、の2つだけにした形を作った。これを、「小ロンド」などと呼んでいる。たとえば、ベートーヴェンピアノソナタ第8番 Op.13 《悲愴》の第2楽章は、そのよい例である。この楽章は、アダージョ・カンタービレ 変イ長調 4分の2拍子で、これを図に描くと、次のようになる。

AA(変イ長調)~B(ヘ短調)~A(変イ長調)~C(変イ短調)~AA(変イ長調)~終結部

しかし、一般にロンド形式といわれているのは、第1副主題Bを、最後にもう1度、Aと同じ原調で使う形をいう。その1つの例として、同じくベートーヴェンの《悲愴ソナタ》の第3楽章を挙げることができる。この楽章は、ロンド アレグロ ハ短調 2分の2拍子で、これを図に描くと、次のようになる。

A(ハ短調)~B(変ホ長調)~A(ハ短調)~C(変イ長調)~A(ハ短調)~B(ハ長調)~A(ハ短調)~終結部

なお、バッハのヴァイオリン協奏曲第2番も、ベートーヴェンの《悲愴ソナタ》も、原曲通りの演奏であれば、いずれもこのことを確かめることができる。


[付記]ロンド・ソナタ形式といわれる例を、1つご紹介しておこう。
モーツァルト:交響曲第35番 ニ長調 KV.385《ハフナー》 第4楽章

A(ニ長調)~B(イ長調)~A(ニ長調)~B(ロ短調)~A(ニ長調)~B(ニ長調)~新主題~終結部A(ニ長調)

おもな主題は、2つしかなく、2回目のAと、ロ短調になったBは、かなり変化しているから、この部分をソナタ形式の[展開部]とみることもできるし、最後のBが、原調のニ長調になっていることから、ソナタ形式ともいえる。

一方、ロ短調のBを、第2副主題とみて、かつ終結部のAを、ロンド主題の最後の提示とみれば、ロンド形式ともいえる。そのために、これをロンド・ソナタ形式と呼んでいるのである。

参考資料(YouTubeリンク)

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