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教材発見 形式〈3部形式〉
モーツァルト:交響曲第35番 ニ長調 K.385《ハフナー》から 第3楽章『メヌエット』

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このコンテンツは月刊「音楽鑑賞教育」掲載記事のアーカイブです。執筆当時の時代背景、表現、考えに基づいた記事であることをご了承の上、ご利用ください。記事に対するご意見やお問い合わせは音鑑事務局にお願いします。

渡邊 學而(音楽評論家)
月刊「音楽鑑賞教育」2007年6月号掲載

この曲は、3部形式、あるいは複合3部形式を指導するときに、とてもよい教材である。通常メロディーを構成する最小単位の小節数は、4小節か8小節で、とくに前後4小節ずつのフレーズが1つになった8小節の旋律が、もっとも基本的な形であるといえる。

この第3楽章のメヌエットは、各主題がいずれも8小節で、しかもそれらがまったく変化することなく、同じ形で繰り返されるようにできていることが、大きな特徴である。

曲はニ長調 四分の三拍子で、主部の主題Aは、ニ長調、副主題Bは、イ長調で、いずれも8小節、そして中間部の主題Cは、イ長調、副主題Dは、ホ長調で、これらも同じく8小節ずつだが、じつはCとDとの間に、4小節の橋渡しの部分が入っている。

楽譜

これら4つの主題がどのように組み合わされて、曲全体が構成されているかというと、次のような図式になる。

曲全体の構成

図に描くとこのようになるのだが、実際の楽譜では中間部の最後からダ・カーポにより主部の冒頭に返って、繰り返しなしの主部で終わっている。そして、ここで示した4つの主題、A、B、C、Dは、まったく同じものが繰り返し使われているから、Aは全部で6回、Bは3回、Cは4回、Dは2回、それぞれ繰り返されている。

だから、モーツァルトが作曲したのは、4つの主題と橋渡しの部分の4小節、すなわち、32+4=36小節だけで、これだけの曲が仕上げられているのである。

ハイドンやモーツァルトが活躍した古典派の時代には、このように図に描けるような、調和均整のとれた形式の美しさが重んじられるようになった。この形式という概念は、音のグループあるいは旋律の組み合わせ方に一定の法則、あるいは秩序を与えようとすることから発している。そしてそれを支える基本的な要素は、「繰返し」、「変化」、「対比」の3つの要素に集約して考えることができる。音楽は時間の芸術だから、1つの旋律なり楽想を印象づけるためには、何回も聴かせることが必要だが、同じものを何回も聴かせていると飽きてしまうので、それに少し「変化」をつけて「繰返す」ことが必要になってくる。

他方、同じ系統のものばかりを繰り返していたのでは、音楽に1つの色合いとか性格しか与えられないので、その時にはこれとはまったく違った「対比的な」旋律なり楽想を入れることによって、お互いの性格や特色をいっそう明確化することができるのである。

この対比を生み出す方法としては、さまざまなことが考えられる。

たとえば、強弱の対比とか、速度の対比、あるいは力強いマルカートの楽想となめらかなレガートの楽想といったことのほか、調性の変化も一つの重要な要素なのである。

以上のことを、このメヌエットにあてはめてみると、次のようになる。

Aは、躍動的な力強い前半とややなめらかだが、付点リズムをもった後半の楽想から成っている。Bは、調性と旋律はやや異なるが、構成はまったく同様なので、Aの変化とみることができる。これに対して、Cは、Aとはまったく「対比的」な、弱奏による非常になめらかな楽想で、調性も異なっている。そしてDは、やはり調性や旋律はやや異なってはいるが、楽想自体は共通しているので、Cの変化したものといえる。

そのために、A-B-Aのグループと、C-D-Cのグループとが、際立った対比をみせ、それが典型的な3部形式を形成しているのである。

なお、この曲で形式のことを指導する場合、使用する演奏は、モーツァルトの交響曲のオリジナルのものであれば、どれでもよい。

参考資料(YouTubeリンク)

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