音鑑の助成研究 特設ページ

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日本の伝統的歌唱研究会

 このページは、「平成22年度 第43回 音楽鑑賞教育振興 論文・作文募集」研究助成の部に入選され、2年間の助成研究に取り組まれた「日本の伝統的歌唱研究会」の特設ページです。

入選研究テーマ 我が国の伝統音楽の鑑賞指導法および教材化研究pdf(PDF:1.4MB)
─伝統的歌唱の表現体験活動と鑑賞との関連を軸に─
研究グループ 日本の伝統的歌唱研究会
本多佐保美 代表、千葉大学准教授
志民一成  静岡大学准教授
山田美由紀 千葉大学・静岡大学非常勤講師、長唄三味線演奏家
森下華代  静岡大学教育学部附属島田中学校教諭
村田美香  千葉大学教育学部附属小学校教諭
研究成果 音楽教育研究報告 第28号
「我が国の伝統音楽の指導法および教材化研究」
~ 長唄の表現活動と鑑賞との関連を軸に~

第3回報告 長唄『勧進帳』を教材とした検証授業

 みなさん、こんにちは。
 長唄を中心とする日本の伝統的歌唱の教材化研究の第3弾をご報告します。
 今回取り上げた長唄の曲は、《勧進帳》です。《勧進帳》(1840(天保11)年 四世杵屋六三郎作曲)は、長唄の名曲であり、長らく中学校鑑賞共通教材として指定されていたことから、中学校では必ず取り上げられる楽曲となっています。
 歌舞伎《勧進帳》の上演時間は約78分、長唄《勧進帳》は約28分という大曲であり、聴かせどころも数多く、多様な視点から教材化が考えられる楽曲です。これまで共通教材で指定されていた冒頭の部分以外でも、生徒にとって魅力的で、長唄のかっこよさをアピールできる部分、うたってみるのに難しすぎず、チャレンジできる部分を検討し、山田美由紀のアイデアをもとに教材化と授業づくりをすすめることとしました。
 今回、私たちが教材として取り上げた部分の歌詞(詞章)は、以下のとおりです。

 鳴るは滝の水、日は照るとも、絶えずとうたり、
 とくとく立てや、手束弓(たつかゆみ)の、心許すな関守の人々、
 暇(いとま)申してさらばよとて、笈(おい)をおっ取り肩に打掛(うちか)け、
 虎の尾を踏み毒蛇の口を、逃(のが)れたる心地して、
 陸奥(むつ)の国へぞ下(くだ)りける

 この部分を選定した理由として、次の5点を挙げます。

  1. 教材部分は、曲の最後の部分であり、曲が最高に盛り上がる箇所である。
  2. たたみかけるようにうたう箇所なので、長唄独特のことばの運びがテンポよく体感できる。
  3. 教材部分の長さが教材として適当である。
  4. 教材部分の前後は、弁慶の延年の舞や六方など歌舞伎のダイナミックな魅力を堪能することができ、鑑賞と関連を図ることができる。長唄単独では、〈滝流し〉など迫力ある演奏が楽しめる。
  5. 日本の伝統的な歌唱の教材として、他の種目と関連づけながら扱うことができる。教材部分とほぼ同じ詞章が謡曲《安宅》にあるため、長唄と謡曲の当該部分を比較しやすい。

 このように様々な角度から扱うことができる部分ですが、今回は「2. たたみかけるように歌う箇所なので、長唄独特のことばの運びがテンポよく体感できる」を中心に検証授業を行ないました。
 検証授業は、2012(平成24)年度に、千葉市立花園中学校(第2学年)、静岡大学教育学部附属島田中学校(第2学年)、千葉大学教育学部附属中学校(第1~3学年・選択)の3校で実施しました。
 ゲストティーチャーは、各回とも唄は東音谷口之彦、三味線は東音山田美由紀の2名にお願いしました。
 本授業では、長唄を実際にうたってみる前に、ことばのまとまりを意識して当該部分の歌詞を声に出して読むことを行ないました。そうすることで、ことばのリズム、高低アクセント、発音などに意識が向き、うたってみる部分の長唄の特徴を捉えるのに有効であると考えます。音楽科教員の指導により、うたう前に、歌詞をすらすらと読めるようにしておき、その上で実演家を招き、その範唱に合わせてしっかり声を出してうたう指導を行なうこととしました。
 1時間目に、「鳴るは 滝の水~」の部分を、覚えるくらいに繰り返し読んでおいた上で、本時に実演家を迎えての授業を実施しました。授業の流れは、以下のように構成しました。

  1. 生徒が1時間目の成果を披露する。拍を意識せず、すらすら読めるか。ゲストからアドバイスをもらう。
  2. 今日うたう部分を聴いてみよう。ゲストの演奏の鑑賞。
  3. ゲストからおうむ返しで唄を聴き覚え、うたう。うたう時のポイントとして、無声音や鼻濁音、また、声を力強く出す部分(跳ね上げ)に注意する。また、姿勢や呼吸に気をつけ、お腹から声をだすことを意識する。
  4. 全員で、あるいはグループごとに分かれて練習し、お互いに聴きあう。
  5. 最後にゲストの演奏を鑑賞する。

 本授業は、音楽科教員と実演家との連携を図り、長唄の特徴の1つである「ことばの抑揚やリズムがそのまま唄となる」という部分をうたう授業でした。詞章の読みを事前に行ない、無声音や鼻濁音に意識を向けることで、限られた授業時間の中でも、ことばの語感やリズムを大切にしながら長唄をうたうことができました。「語りに近い歌詞で、言葉のリズムもそのままに歌にしているので、日本の独特なリズムがわかった」「歌というよりしゃべっているのに近い」「言葉の良さを出している長唄」と、生徒の感想にもあるように、歌としゃべり言葉との中間のような歌という長唄の特徴の一側面について実感することができました。
 今後は、《勧進帳》の別の部分の教材化の可能性や、能《安宅》との比較の授業等についても検討していきたいと思います。そして、1つひとつの事例の実践・検証を積み上げることによって、最終的には我が国の伝統音楽の題材を年間指導計画の中にバランスよく組み入れたカリキュラムを作成することを今後の課題として挙げておきます。

第2回報告 長唄『雨の四季』より「飴売り」を教材とした検証授業

 みなさん、こんにちは。
 長唄を中心とする日本の伝統的歌唱の教材化研究の第2弾をご報告します。
 前回のレポートでは、生徒が自分のもっている声を生かしてのびのびと歌うことができる曲として、昨年度までに実施した長唄『新曲浦島』より「船唄」の部分をご紹介しました。「船唄」は、長唄の声そのものをぞんぶんに聴かせる聴かせどころの部分でした。
 さて、今回取り上げる長唄の曲は、長唄『雨の四季』(昭和42年、山田抄太郎作曲)より「飴売り」の部分です。「飴売り」の部分は、「船唄」とは対照的に、長唄の「しゃべるようにうたう」歌い方のよさをたっぷり味わえる曲となっています。
 長唄演奏の専門家である山田美由紀の発案により教材提案がなされ、教材曲のDVD作成(録画)、山田と唄方の竹内さくら氏とによる授業者へのレクチャーを経て、7月には実際に中学生を対象とする検証授業が行われました。
 「飴売り」の歌詞の冒頭部分は、「飴売り」「飴屋」などと呼ばれ、縁日での飴売りの売り声を表している部分です。飴の様々な中身を、各地の名産を取り入れて歌っています。
 この曲が教材としてすぐれている理由は、いくつか考えられますが、特に以下の点をここでは挙げておきます。

  1. 日本語のことばのリズム、抑揚、高低アクセントなどを意識して歌うことができる。
  2. 長唄によく見られる、音程にとらわれない歌い方の一例を知ることができる。
  3. 三味線を用いなくても、ひざや手拍子を打つなどして練習できる。また、三味線の手は比較的簡単なパターンの繰り返しなので、三味線を取り入れることも比較的、容易である。
  4. 全員で歌う、歌う箇所を分担する、リレー式に歌う、互いの歌を聴きあうなど様々な形態での展開が可能で、最終的には一人で歌うことを目標にできる。
  5. 「飴売り」の前後を含めた鑑賞への発展性がある。

 7月に静岡大学附属島田中学校の松下成輝教諭により中学1~3年生を対象とした授業を、同じく7月に掛川市立掛川西中学校の齊藤昇教諭により中学1~3年生を対象とした授業を実施していただきました。特に静岡大学附属島田中学校の授業では、静岡大学の学生たちがTTとして加わり、生徒と一緒に歌ったり三味線を弾いたりして授業をつくっていきました。
 今回は、指導の方法として、ゲスト・ティーチャーをお呼びするのでなく、DVDを作成し、それを用いて音楽の教師が授業を行なうということを試みました。山田と竹内による事前のレクチャーで、飴売りを歌う際の留意点として授業者に特に伝えた点は、1. モデル演奏のものまねをするように歌う、2. ことばをしゃべるように歌う、3. 「売り声」を表現するつもりで歌う、の3点でした。
 音の高さのとおりに歌うという概念ではなく、ことばのリズム、抑揚、高低アクセントを意識して、しゃべるように歌うのがこの題材の眼目です。ふだんのしゃべり声とも合唱の声とも違う、モデルとなる竹内の歌い方の特徴をつかむことが重要となります。また、飴売りは売り声なので、飴が食べたくなるように、飴が買いたくなるように、お腹から声を出し、呼びかけるようにして「その気になって」歌うことが大切になります。
 授業を終えての生徒の感想文で、3年の女子生徒は「合唱曲とかと違ってリズムにのってうたう感じだし、恥さえ捨ててしまえば楽しめる」と表現しています。また、2年の女子生徒は、「思っていたよりイントネーションがおもしろい。声を裏返して歌うような歌い方は普通の合唱ではありえないけど、歌として使っていてすごい」と書いていました。

 授業を実践してみて、日本語を歌うときに気をつけるべき点もさらにいくつか見えてきました。言葉の高低アクセントが地方によって異なるため、無意識のうちに静岡の言葉のアクセントが表れたところがありました。逆に言えば、長唄は江戸の芸であることが、はっきりとわかりましたが、日本語を歌うとき、言葉の高低アクセントを意識すること、また子音をどのように発音するか、あるいは鼻濁音を意識して歌うこと等は、長唄に限らず重要なことです。
 長唄という我が国の伝統的な歌唱表現に親しむことを通して、生徒たちには日本語の響きに関心をもち、声の表現の多様性に気づいていってほしいと願っています。

第1回報告 アジア太平洋地域音楽教育研究大会

 みなさん、こんにちは。
 日本の伝統的歌唱研究会代表の千葉大学の本多佐保美です。
 私たち研究グループは、音鑑「平成22年度 第43回 音楽鑑賞教育振興 論文・作文募集 研究助成の部」にて研究助成をいただき、現在、長唄を中心に日本の伝統的歌唱の鑑賞指導法と教材化研究を推進しています。
 これからONKANウェブネットにて、研究の進捗状況を随時、ご報告していきます。どうぞよろしくお願い致します。

 さて、第1回目のレポートは、2011年7月4~6日に台湾・台北にて行われましたAPSMER(アジア太平洋地域音楽教育研究大会)にてポスター発表を行ってきましたそのご報告です。
 台湾は台北市の台北市立教育大学にて開催されたこの研究大会(国際学会)では、地元、台湾や日本はもとより、韓国、シンガポール、タイ、香港など各地から音楽教育研究者が集まり、研究成果の共有と交流を行いました。台湾は連日、35度を超える猛暑で、ポスター発表会場は熱気にあふれ、玉の汗を流しながらの発表となりました。
 発表タイトルは「How to Teach the Singing of Traditional Japanese Music: A Case Study of Nagauta Singing in a Secondary School 日本の伝統的歌唱をどのように教えるか―中学校における長唄指導の事例をもとに」、本多と山田美由紀(長唄三味線演奏家)、志民一成(静岡大学)の3名による発表です。
 昨年度までに中学校にて実践した、長唄『新曲浦島』より「船唄」を教材とする事例の報告と考察を中心に発表しました。『新曲浦島』の「船唄」の部分は、三味線の伴奏が止み、長唄の声をぞんぶんに聞かせる聞かせどころで、生徒が自分のもっている声を生かしてのびのびと歌うことができ、旋律もとらえやすく、教材化に適した曲です。専門家である山田のアイデアをもとに実施した授業の流れ、指導方法、教材の意義などを提示するとともに、静岡大学教育学部附属島田中学校の授業での生徒の声の変化の様子について、倍音の表れ等を指標とした音響的な分析をもとに考察を行ないました。
 「この研究のキーポイントは何か」、「腹から声を出すとはどういうことか」、「伝統的な長唄の楽譜は何を表しているのか」等々、活発な質問が相次ぎました。参会者と一緒に、「船唄」の一節をうたってみたり、iPadに入れて持参した生徒の声の様子を示したりと、実際の音をまじえての発表になりました。
 アジア各国では、それぞれの国の事情はあるものの、どの国においても西洋音楽中心の教育システムの中で、伝統的な音楽をどのように扱っていくのか、課題を抱えています。今回の発表をとおして、アジアの他国の事例から学んだり、また声の質に関する用語や、呼吸法あるいは身体の使い方に関する用語をさらに精査し、共通の基盤にたった上で研究を推進していく必要性も強く感じました。
 現在、研究会では、「船唄」以外の長唄の曲についても、さらなる教材化をするべく計画中です。今後のレポートにどうぞご期待ください!

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