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Report & Information 2010年3月

GLOBAL 森重行敏

〈BOOK〉
箏と箏曲を知る事典
箏と箏曲を知る事典

宮崎まゆみ著 (東京堂出版 本体2,800円+税)

 事典と言っても読み物風の構成で、音楽としての箏曲と、楽器としての箏の解説が満載。箏曲といえば一般には近世以降のものが連想されるが、ここでは平安貴族の宮廷箏曲、近世への橋渡しである筑紫箏曲、そして一般的な当道箏曲に分けて解説。著者は今や事実上廃絶している筑紫箏研究の第一人者であり、筑紫箏についての詳細な研究成果に基づいて書かれた内容は、他書では得られない貴重な情報である。辛うじて残された録音における調弦や音律について、その疑問点についても指摘しており、今後の研究の必要性が納得できる。
 後半は楽器としての箏のさまざまな実例や逸話が紹介される。いずれも写真入りで箏の変遷がよくわかる。それにしても、従来の定説や常識に惑わされずに、実証的な研究の大事さがよくわかる。全体を通じて類書とは一線を画す研究姿勢が偲ばれると同時に、一般にも読みやすい良書。


まるごと三味線の本
まるごと三味線の本

田中悠美子、野川美穂子、配川美加編著 (青弓社 本体2,400円+税)

 今月は前書と並んで、日本を代表する楽器の本がたまたま出揃った。こちらは各分野の専門家16名が勢ぞろいして分担、編集の3人がそれらをまとめたもの。いわゆる古典邦楽だけではなく、現代邦楽や大衆芸能、三味線ポップスとでもいうべきジャンルを越境するものまで幅広く取り上げられている。なかには、津軽三味線の演奏家を世代別に紹介したり、古典分野の過去の名演奏家をとりあげるなど、興味深い内容も多い。言うまでもなく、三味線ほど多岐にわたるジャンルで活躍している楽器は他にない。そのためもあってか、従来は種目や流派を超えた解説や展望はなかなか実現しにくかった。学校教育でも緊急の課題となっている和楽器の代表として注目はされているものの、状況はますます厳しくなっている面もある。生半可な取り組みではいかんともし難いのが現状であろう。こうした時期であるからこそ、研究者、演奏家、教育者が文字どおり手を携えて挑むべき課題であることは間違いない。前書が個人の優れた業績の賜物であるのに対し、本書は共同作業の利点が活かされた成果と言える。どちらもが求められているものであることは言うまでもない。

SCHOOL 佐野靖

〈BOOK REVIEW〉
サウンド・エデュケーション[新版]
サウンド・エデュケーション[新版]

R・マリー・シェーファー著、鳥越けい子・若尾裕・今田匡彦訳 (春秋社 本体1,800円+税)

 現代音楽の作曲家であるR・マリー・シェーファーは、多様な分野においてきわめてクリエイティブな活動を展開し、その「サウンドスケープ」の思想、方法、実践の数々は、音楽教育の世界にも大きな影響を与え続けている。本書は、1992年にその初版が出版された『サウンド・エデュケーション』の新版で、2009年6月に発行された。
 所収された100の実践課題は、私たちが「音を通じて身近な環境と自由で豊かな関係を取り結ぶ」ための試みであり、体験を通して「聴くこと」のいろいろな意味世界を拓くためのテキストなのである。
 訳者のひとり鳥越けい子氏によれば、初版の出版から17年経った今日、「サウンド・エデュケーション」とは、単なる「書名」に留まるものではなく、「サウンドスケープの考え方を踏まえた教育プログラムの総称」として位置づけられるという。さらに、課題としての「サウンド・エデュケーション」は、本書に収められた課題に留まるものではなく、シェーファーによって考案された内容に限られるものでもない。「読者がそれらの課題をそれぞれの情況に合わせて自由に展開すること」、「読者自身が、新しい課題を考案すること」を本書は促しているのである。


形成的表現から平和へ―美術教育私論―
形成的表現から平和へ―美術教育私論―

上野浩道著 (東京藝術大学出版会 1,900円+税)

 本書は、最近のわが国の底の浅い文化状況、学校教育における芸術教育の軽視などに危機感を募らせる著者が、美術教育の本質と可能性を提唱したものであり、これまでの『日本の美術教育思想』、『美術のちから 教育のかたち』と合わせて三部作を形づくるものである。タイトルの「形成的表現」ということばは、「表現という行為に人間形成的契機が含まれているという意味」で用いられている。また、「平和へ」には、上田市の「無言館」を訪ねた時の忘れられない体験、思いが込められている。そこで「美術と平和の問題について改めて考え込まざるをえなかった」著者は、「表現によって人間形成をはかり平和な世界を実現する筋道」を本書で論じたかったのである。
 全体は、「人間を育てる美術:美術教育の役割」(第1章)、「感情の表出と心身の統合:形成的表現について」(第3章)、「イメージと表現の発達:教材と表現力」(第4章)、「美術作品のもつ教育力:鑑賞力の問題」(第6章)など計8章から構成されている。
 なかでも興味深いのは、第6章の「2 批評することば」で、大正期の童謡運動を主導し、『赤い鳥』を発行したことで知られる鈴木三重吉の綴り方教育に対する考え方や子どもの作文及び鈴木の細評を取り上げているところである。音楽科における「ことば」の問題を考えていく上でも大変示唆に富む内容となっている。

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