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Report & Information 2009年12月

GLOBAL 森重行敏

〈BOOK & PERFORMANCE〉
〈琴〉の文化史 東アジアの音風景
〈琴〉(きん)の文化史 東アジアの音風景

(勉誠出版 本体2,000円+税)

 七弦琴は中国古代以来、文化人の教養としても不可欠なものであったが、あまりにも高尚なものとして扱われたせいか近年では伝承者も減少、ユネスコの無形遺産にも真っ先に認定された。日本にも古代と江戸期にも伝来し、源氏物語などでも記述されているが、結局広く普及するには至っていない。近世以来、琴といえば13弦の箏を指すのが一般化しているのは、本来の琴への憧れからの確信犯的な錯誤である可能性すらある。音楽学的にも採り上げられる機会は多くはなく、今回の企画も20名を超える著者による文字どおり「琴」の大特集ではあるが、主に文学史や歴史学からのアプローチといえる。日本音楽に限らず、音楽学と文学、歴史学の共同作業はあって当然のものであるにも拘らず、なかなか成果が上がっていない。このテーマに限らず、可能性は無限に広がっている。今後の進展に期待したい。


遠藤千晶 第十三回日本伝統文化振興財団賞
遠藤千晶 第十三回日本伝統文化振興財団賞

(日本伝統文化振興財団 3,500円)

 標題の受賞記念リサイタルのライブ映像。若手箏曲家の古典から現代までの幅広い曲目が披露される。特筆すべきは第2部全曲がオーケストラとの競演であること。宮城道雄、藤井凡大、石井真木という選曲も偏りのないもの。第1部では古典、沢井忠夫曲、尺八の人気演奏家藤原道山との委嘱初演もある。ともかくそのレパートリーの広さと安定した演奏は比類ないもので、受賞の理由もよくわかる。伝統文化を担う若手が、古典のみならず、積極的に新たな挑戦を続ける姿勢も心強いものがある。


日本音楽の魅力(ちから)
日本音楽の魅力(ちから)

2010年1月24日15時開演 洗足学園音楽大学ブラックホール(神奈川県川崎市)

 現代邦楽研究所15周年記念トーク&コンサート。箏組歌から新曲までの演奏とゲストによるトーク「邦楽に未来はあるか?」。演奏は西潟昭子、石垣清美、砂崎知子、三橋貴風ほか現代邦楽研究所講師・研究生。ゲストは坪能由紀子、藤本草、茂手木潔子ほか。
問い合わせ先:洗足学園音楽大学現代邦楽研究所

SCHOOL 佐野靖

〈BOOK REVIEW〉
教師花伝書
教師花伝書―専門家として成長するために―

佐藤学 (小学館 本体1,200円+税)

 『総合教育技術』(2007年4月号~2009年3月号)に連載された「教師花伝書」24篇の文章に基づく本書は、「第一部:専門家として成長するために」(12篇)、「第二部:私の出会った教師たち」(8篇)、「第三部:教師として生きる」(4篇)から構成されている。世阿弥の『風姿花伝』の精神にのっとって、著者は言う。「歴史的な転換期を生きる教師は『教える専門家』であると同時に、『学びの専門家』として修養と研修に励む必要がある。今日のように教育改革がかまびすしく叫ばれ、学校が混迷と混乱の渦に巻き込まれている状況においては、それらの激流や濁流に流されることなく、教師の在り方に絶えず立ち戻り、粛々と授業実践の『花』の創造に身と心を砕き、その『心』(思想・哲学)を洗練させ、その『種』である『態』(身体技法・見識)を学び続けることが肝要である」。

 長年にわたり、さまざまな学校の授業を観察・分析し続けている著者の実践を語る「言葉」は説得力があり、また、実践者が紡ぐ生の「言葉」は絶妙である。さらに、著者の授業の本質をとらえる「アングル」は、音楽科の授業研究にとっても大変示唆に富むものである。

 例えば、第一部の「創造的な教師の技法」では、実践者の「『響き合う授業』とは、水面に石を投入れた時の波紋のように敏感に反応する教室に生まれる授業である」という気付きから、「『波紋』としての『響き合い』を基盤に据えると、教師は、学びを推進する子どものまなざしで教材を探究する必要があり、教室に生起する多様で複雑な『波紋』をどうつなぎ、どう広げるかが教師の技法として問われることになる」という言説が導き出されている。また、「教室の時間」を「川のように流れる時間」と「雪のように降り積もる時間」の交錯点ととらえる著者によれば、学校のカリキュラム(指導計画)は「直線的で不可逆的で均質で一方向的」な「川のように流れる時間」で組織されるが、学びの実際は「身体的活動であり、学びの身体が経験する時間は可逆的で循環的で多層的な時間」、すなわち「雪のように降り積もる時間」だという。

 さらに、子どもの発言やつぶやきを聴くことの重要性を強く主張する著者は、「その発言やつぶやきが、題材(テキストや資料)のどことつながって発せられているのか、他の子どものどの発言とつながって発せられているのか、そして、その子自身のそれ以前の考えや発言とどうつながって発せられているのか、この三つの見えない関係を認識することが必要である」と述べ、授業における「聴くこと」の意義をここに求めている。

 教師として「子ども一人ひとりの学びと尊厳」「教材の発展性」「教師自らの哲学」を尊重すること、さらに、「伝統を見失うこと」「創意ある挑戦を放棄すること」「知ったかぶりの人々がまき散らす騒ぎや混乱に翻弄されること」を厳しく戒める本書は、何度も読み返したいテキストである。

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