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Report & Information 2009年11月

GLOBAL 森重行敏

〈BOOK & PERFORMANCE〉
エチオピア音楽民族誌・ファラシャ/エチオピア正教/望郷歌
エチオピア音楽民族誌・ファラシャ/エチオピア正教/望郷歌

ケイ・カウフマン・シェレメイ著、柘植元一訳 (アルク出版企画 本体2,300円+税)

 エチオピアは神秘のヴェールに覆われている。紀元前のソロモン王伝説に始まり、近年の皇帝廃位の革命に至る歴史は辛うじて知られているが、その音楽について具体的な研究は日本ではほとんど聞かない。一般にはアベベ以来のマラソン選手輩出国としてしか知られていないかもしれない。アフリカにあってアラビア的文化でもあり、古キリスト教も行なわれている。その意味でさまざまな研究がなされて当然の地域でありながら、複雑な文化背景や政治情勢がそれを阻んできたのだろう。
 本書は北米民族音楽学会会長である著者が自らユダヤ民族として、かつてエチオピアのユダヤ人社会で過ごした体験をもとに、まるで小説ではないかと思えるほどの劇的な筆致で綴ったもの。1970年代革命前後の国内の混乱が当事者の眼で語られている。エチオピア・ユダヤの人々は移住によりイスラエルに運ばれてしまったという。彼の地の民族、宗教、音楽のせめぎ合いは我々の想像を超えた力学の上に成立しているのかもしれない。


生きた正倉院 雅楽
生きた正倉院 雅楽

(OLDSEA 3,800円+税)

 雅楽には宮内庁の伝統だけではなく、各地の神社仏閣で独自に伝えられて来た要素もある。大阪四天王寺など、もともと舞楽上演の歴史が永く、明治期の宮内庁による選定から外れた曲が残っているものもある。
 今回のDVDは、そうした各地の舞楽上演や、天平琵琶譜や正倉院楽器の復元演奏、デジタル小冊子と名付けられた文章解説資料など、従来の雅楽入門ビデオとは違った視点による映像が記録されている。なかにはアニメーションを使用した紹介もあって、分かりやすくユニークな切り口で雅楽の魅力が味わえる。雅楽はこのたび、能、歌舞伎、文楽に続いて世界無形遺産に登録されることとなった。千数百年の歴史をもつ雅楽はまさに人類共通の宝といってよい。この時期にふさわしい企画といえる。


中村仁美 篳篥リサイタル“葦の風” no.5
中村仁美 篳篥リサイタル“葦の風” no.5

2009年11月6日19時 北とぴあ つつじホール

 雅楽の篳篥とバグバイプの競演が聴きどころ。同じダブルリード楽器とはいえ、競演の機会は珍しい。近藤治夫をゲストに、カルミナ・ブラーナ残照などのほか、三宅一徳の雅楽器のための新作なども初演。問い合わせはテレビマンユニオン。

SCHOOL 佐野靖

〈BOOK REVIEW〉
音楽教育学の未来
音楽教育学の未来【日本音楽教育学会設立40周年記念論文集】

日本音楽教育学会編 (音楽之友社 本体3,000円+税)

 日本音楽教育学会は、音楽教育研究にかかわる日本で最初の学会として、設立からほぼ10年ごとに、『音楽教育の展望』(1979年)、『音楽教育学の展望II(上・下)』(1991年)、『音楽教育学研究(全3巻)』(2000年)と論文集を刊行してきた。そして今秋、設立40周年を記念して発刊されたのが、この『音楽教育学の未来』である。

 今日、音楽教育の研究・実践にかかわって諸学会の活動が多様に展開されているもとで発刊される記念論文集『音楽教育学の未来』には、「音楽教育研究の全体をここでもう一度展望してみよう、それとも展望できるだろうか」という意味、さらに、「今後、音楽教育学は事実として一つの学として活動してゆけるのだろうか」、あるいは「音楽教育学を一つの学としてそのすべてを含む学会としての活動は今後成立するのだろうか」という問いかけなどが込められているのである(「発刊にあたって」より)。

 編集委員も含め計39名の執筆者による論考が掲載された本記念論文集は、6つの研究分野(第1章:歴史、第2章:知覚・認知、第3章:乳幼児、第4章:学校教育、第5章:社会教育・生涯教育、第6章:障害と音楽教育/音楽療法)と「巻頭エッセイ」から構成されている。また各章は、「10年間の研究動向」と3~4本の論文から成っている。

 本記念論文集の特徴のひとつが、6つの研究分野ごとに配置された各編集委員が担当分野の過去10年間(1998~2007年)の研究動向をまとめていることである。各編集委員がそれぞれの視点からアプローチした研究動向は、当該分野の研究指針として重要であるとともに、論考として刺激的で読み応えがある。

 冒頭に置かれた「巻頭エッセイ」も実に興味深い。情報工学や医学、児童文学、金属工芸、作曲・編曲の専門家たち6名による、それぞれの立場や経験からの提言や問題提起、あるいは音楽教育に対する期待等は、大変示唆に富む内容となっている。含蓄のある表現で味わい深い文章が並んでいる。

 400頁にも及ぶ『音楽教育学の未来』は、音楽教育の研究者のみならず、実践にかかわる方々にとっても必携のテキストである。

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