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Report & Information 2009年10月

GLOBAL 森重行敏

〈BOOK & CD & PERFORMANCE〉
アフロ・ディズニー
アフロ・ディズニー

菊池成孔、大谷能生著 (文藝春秋 本体1,429円+税)

 一応、慶応義塾大学での講義録という体裁ではあるが、実際には後から整理された部分の方が大きいらしい。かつてジャズ理論や現代音楽論をテーマに東大、芸大などでの講義で一躍注目された著者の最新講義録。それにしても意味不明のタイトルではある。一言でこの講義の内容を要約するのは難しいが、著者によれば「視聴覚の分断、再統合という現象と発達学を結びつけ、20世紀を俯瞰する。という構えで行なわれた、軽狂の人文(疑似)科学講義」とのこと。副題として、「エイゼンシュテインからオタク=黒人」まで、となっている。これを解釈すれば、映画における視覚と聴覚のずれの問題から、かつて社会で差別されていたものの防御本能についての考察、とでもなるのだろうか。かなり脱線しまくる内容ではあるが、著者によれば、20歳前後の若者にはたぶんミスマッチで、中高年には当たり前と受け入れられるとの観測。ともかく、全体を通じて詳しい理解を求めるというより、20世紀そして現在の芸術と社会情勢についての示唆に富むフレーズがちりばめられたもので、まさに饒舌なジャズの即興演奏に例えられる内容。
 あらためて本書のタイトルを考えてみると、ディズニー映画を典型とするような、視覚と聴覚の完璧な一致による20世紀的芸術が人々を子供化したのではという問題提起と、アフリカ系文化がグローバル化に与えた問題とでもいえようか。


時ノ翼/KOBUDO─古武道─
時ノ翼/KOBUDO─古武道─

(コロムビア COCQ-84622 3,000円)

 チェロの古川展生、ピアノの妹尾武、尺八の藤原道山によるトリオ。一見いかめしいグループ名は3人の頭文字。ニュース番組のテーマから邦楽を素材とした楽曲、クラシックまでとバックグラウンドの違う3人の個性が光るとともに、ジャンルの壁を感じさせない高い音楽性により、安心して聴ける一枚となっている。


ジャワ・舞踊とガムランの宇宙
ジャワ・舞踊とガムランの宇宙

サスミント・マルドウォ舞踊団(ジャワ)、カルティカ&クスモ(日本)合同公演
10月21日(水)、22日(木)19時開演 日本橋公会堂

演出・構成:田村史子、音楽監督・作曲:サプトノ、振付:シティ・スティヤ
ジョグジャカルタからの音楽家と日本人グループによる合同公演。

SCHOOL 佐野靖

〈BOOK REVIEW〉
基礎学力を問う:21世紀日本の教育への展望
基礎学力を問う:21世紀日本の教育への展望

東京大学学校教育高度化センター編 (東京大学出版会 本体2,800円+税)

 1990年代から一層顕在化した「学力」にかかわる諸問題は、きわめて根深いものだという。すなわち、「21世紀に向けて生きる人間が要求される知識や能力の転換という世界的なレベルの問題と、日本における発展のメカニズムの転換、という問題が輻輳して現れたもの」ととらえられるからである。そうした学力論争の構造と今日的課題を整理し、21世紀の教育に新たな展望を切り拓こうとする本書は、学力を具体的な学校教育の内実、とりわけ「質」の問題として位置づけ、新たな探求の方向を見出そうとしている。東京大学の「基礎学力研究開発センター」改め「学校教育高度化センター」編の本書は、7章プラスエピローグ(執筆者計7名)の構成。

 本書における基礎学力への問いは、大きく3つのレベルから成っている。すなわち、「理念的問い」「教育政策・行政レベルでの問い」「実践的な問い」である。

 例えば、「理念的問い」のレベルに関して、第1章「学力問題の構図と基礎学力の概念」では、学校における学習到達度を示す英語の「achievement」と、それ以上の多様な意味を含意している「学力」という日本語の相違、PISAが提起した「コンピテンス」と「リテラシー」の概念の違いなどを再吟味する必要性が強調されている。また、第3章「グローバル化社会における学力観」では、欧米の「教科準拠型志向」と「教科再構築型志向」といった対比的な学力モデルを、東アジアにおけるバリエーションという視点から見ることによって、学力やその育成を「社会的な問い」と結びつけて捉え直すことの重要性が指摘されている。さらに、第6章「学力概念と指導・評価」では、「学んだ力」と「学ぶ力」という、教育界でのいわば常識的な分類の仕方に加え、認知心理学的な学力モデルが提示され、モデル化のひとつとして、「教えて考えさせる授業」が提案されている。

 第3のレベルである「実践的な問い」に関しては、例えば、第5章「学力政策を支える教師の労働実態と課題」では、小学校では授業や児童の直接的指導業務の軽減、中学校では部活動による超過勤務の軽減に向けた方策の必要性が指摘されている。さらに、子どもの学ぶ姿の具体像から学力形成の授業のあり方にアプローチする第7章「質の時代における学力形成」では、実践の過程を語る「言語の創出」の必要性が強調されている。

 「学力問題を通した公教育の質の転換への見取りの地図であり、現代の政策への警鐘と問題提起」である本書は、確かに、「基礎学力」を明確に定義し、その形成方法を端的に処方するテキストではない。しかしながら、学力の問題を歴史的、比較的、社会学的にとらえ直し、実践を展望していく上では格好のテキストと言える。

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