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Report & Information 2009年6月

GLOBAL 森重行敏

〈BOOK & PERFORMANCE〉
中東欧音楽の回路 ロマ・クレズマー・20世紀の前衛
中東欧音楽の回路 ロマ・クレズマー・20世紀の前衛

伊東信宏著 (岩波書店 本体2,900円+税)

 その副題からして、ジプシー、アメリカのユダヤ音楽と前衛という刺激的なタイトルが並ぶ。著者自身、一見バラバラな内容と評する論考の集合体である本書は、欧州のみならず日本の音楽のあり方を見つめる新たな切り口を示唆している。前書きで軽く触れられる何とも興味深い「逸話」の数々は、著者の関心があくまでも自らの音楽体験を形作った近代の日本にあることを告白している。いわく、ペギー葉山の『学生時代』がなぜクレズマーに似ているのか。ジンタで知られる『天然の美』をめぐる問題。古賀政男や服部良一にみられる大陸的記憶等々……。
 著者が提起する、音楽の階級制とサブカルチャーとの関連など、専門フィールドの中東欧に限らず、全世界、なかでも日本で避けて通れないテーマであることは間違いない。もっとも、音楽学の対象が世界のどの地域に向かおうとも、研究者が日本で生まれ育っていれば、どこかにその音楽的バックグラウンドが影響を与えないはずはない。対象に真摯に取り組めばなおさらのこと、最後は自らに帰って来るのは当然のことであろう。


キーワード150 音楽通論
キーワード150 音楽通論

久保田慶一編 (アルテスパブリッシング 本体2,200円+税)

 前書きによれば、本書の目的は「学びなおし」にあるという。確かに、音楽知識の数々も常に拡大し、更新されている。かつては一般的であった「名曲の常識」的な知識はもはや時代遅れとなっているものも多い。音律論や世界の音楽、音楽受容の歴史という観点など、新しい視点が音楽通論にも必要となっていることは疑いない。見開きを中心にしたレイアウトによりわかりやすく記述された各論は、いずれも要を得た内容で現代においては常識として求められている内容であろう。
 一方で全体を通してみると、その広汎な内容に改めて気づかされる。音楽もまた情報化社会の一部であり、その全容を把握することの難しいものであることも思い起こされる。細かいところだが、『荒城の月』原曲に派生音があるのは日本の旋法によるとのキャプションは疑問。むしろドッペルドミナントが日本人には歌いにくかったので、最終的に山田耕筰により改訂されたとみるべきではないか。もう1カ所、単なる誤植だろうが、歌舞伎下座楽器の「オルゴール」解説の「リン」の字が見慣れぬ「躙」であるのは残念。


〈東京の夏〉音楽祭「日本の声・日本の音」

2009年6月29日~7月29日

 25回目を迎える伝統の音楽祭。今年は日本特集。
・6月29日 オープニング 石井真木「聲明交響II」ほか 東京オペラシティ 19:00
・7月11日 日本の電子音楽 草月ホール 14:30、16:45、19:00
・7月14日 大野松雄~宇宙の音を創造した男 草月ホール 19:00
・7月18日・19日 宮古島の神歌と古謡 草月ホール 15:00
・7月22日 桃源郷へ・ハワイ生まれの日本民謡「ホレホレ節」草月ホール 18:30
このほか、雅楽公演など参加公演も。

SCHOOL 佐野 靖

〈BOOK REVIEW〉
齋藤孝の学び力
齋藤孝の学び力

齋藤孝著 (宝島社 本体1,200円+税)

 『声に出して読みたい日本語』がベストセラーになった後も、専門の教育学、身体論、コミュニケーション技法等にかかわってわかりやすいテキストを次々と世に送り出す著者が、「学び力」にこだわり、その思いの強さと問題意識を共有しようと構想された本書。著者によれば、「学び」とは、「新しい世界と出会って、自分のなかに新しい意味が生まれてくる体験」であり、新しい意味が生まれてくる瞬間に伴う喜びは人間にとって根源的なものである。そして、日本全体に活気や元気がなく、将来の見通しを立てづらい時代だからこそ、自分で自分の力を蓄えることが大切であり、未来を明るく照らす力は、「学び力」以外にはないと断言する。

 本書の核心となる「学び力」とは、次の5つの要素からとらえられる。すなわち、「自己認識力」「全体把握力」「視点移動力」「共有力」「概念化力」である。

 どんどんハイスピード化する今日的社会にあって、学校教育がどんどん時代に遅れつつあるのではないか、と問題提起を行なう著者は、「上達のプロセス」を身に付けることが学校教育の目的と断言する。「最初は何も知らなかったこと、まったくできもしなかったことを学んで、できるようになっていく。その過程を論理的に把握して、自分の技として使えるように変えていく。それが学校で学ぶべきことです」と。分からなかったことが分かるようになれば、「上達のひな型」ができる。この「『上達力』こそが、『学び力』の基礎になる」のである。

 ここで必要となる「根源的な原動力」が、「学ぶことに付随する喜び」である。著者によれば、学ぶ喜びのなかには、「感動」と「習熟」の2つの要素があり、これが学びの両輪になるという。すなわち、「感動」とは、「こんなの知らなかった」と驚き、心揺さぶられる体験が付いてくること、「習熟」とは、「ものごとがうまくなること」である。

 「真に学ぶという行為は、新しい世界と新しい意味が自分のなかに立ち現れ、新しい自分になることを指します」とその本質を端的に表現する著者は、「学ぶこと自体が喜びであるという共通認識があり、常に学び続けて教養にあふれる人は、敬意を持って遇される」という、かつての日本人の国民性だった学びの復権を声高に主張する。

 巻末に「『学び力』をアップさせるブックガイド」として数冊が紹介されているが、スポーツ界や芸能界などからもどん欲に刺激やヒントを求め続けている著者のスタンスが垣間見られて大変興味深い。

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