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Report & Information 2009年3月

GLOBAL 森重行敏

〈BOOK & CD & PERFORMANCE〉
音楽とは何か
音楽とは何か

徳丸吉彦著 (岩波書店 本体5,200円+税)

 副題に「理論と現場の間から」とあるように、各種理論書の翻訳から、アジア各国の音楽家との交流、邦楽解説、そして数多くの研究者を育てた教育者として功績まで、文字どおり多彩な現場で活躍する氏の論考をまとめた一冊。かつて小泉文夫、山口修氏らと参画した、一連の「アジア伝統芸能の交流」と題されたプロジェクトはその卓越した企画理念と、英語による記録文献や映像の保存などの成果により今なおその価値が持続している。ベトナム雅楽の復興にも中心的役割を果たし、もはや研究者という肩書きでは捉え切れないキーパーソンでもある。ミャンマー音楽の音源CD付き。


西條八十
西條八十

筒井清忠著 (中公文庫 本体1,238円+税)

 童謡運動の第1作『かなりや』、銀座のテーマソング『東京行進曲』、盆踊りといえば『東京音頭』、軍歌の代名詞『同期の桜』の元歌、中国情緒の『蘇州夜曲』、最近まで戦後日本の最大の愛唱歌であった『青い山脈』、演歌『王将』。これらがすべてひとりの作詞家によるものと言われれば、しばし呆然とさえする。20世紀の日本人はすべて西條八十のことばで歌っていたということにならないか。本書はこの歌謡界の巨人の生涯を詳しく書き下ろした2005年刊行本の文庫化。フランス文学者であった西條が大衆歌謡の大御所へと変貌する過程がはじめて明かされている。座右には常に催馬楽から浄瑠璃までの古典が網羅された高野辰之編『日本歌謡集成』があったというのも納得のエピソード。


日本伝統音楽「雅楽・声明1941年」
日本伝統音楽「雅楽・声明1941年」

(アオラ・コーポレーション 2,500円+税)

 戦前に収録され、海外で配布された非売品のSPレコードからの復刻。宮内庁の雅楽と当時の声明家による録音。それぞれ全曲ではないが、久米歌、東遊、催馬楽などの珍しい曲目や定番の『越天楽』といった雅楽14曲と、天台、真言声明からご詠歌までの仏教音楽10曲がおさめられている。音質は当然ノイズもあるが、70年前の音がよみがえることは何にも替えがたい。当時これ以外にも様々な伝統音楽が収録されており、CD復刻も今後シリーズ化されるとのこと。


東京芸術見本市2009
東京芸術見本市2009

2009年3月4日~7日 恵比寿ザ・ガーデンホールほか

 さまざまな舞台芸術団体が活動内容を展示し、ショーケース実演も企画。関連実演には声明(3日、4日南青山スパイラルガーデン)、和太鼓(5日北沢タウンホール)なども。

SCHOOL 佐野靖

〈BOOK REVIEW〉
響きあう脳と身体
響きあう脳と身体

甲野善紀+茂木健一郎著 (バジリコ株式会社 本体1,400円+税)

 武術家・甲野善紀と脳科学者・茂木健一郎の対談をまとめた本書は、全4章構成。ここでは、第3章「身体を通した教育」に焦点を当てて、内容を紹介することにする。

 茂木によれば、教育とは「一言で言えば『人を感化する』ということ」。人を感化する力をもった人こそが、教師と呼ばれるにふさわしい人物であり、そのような人との出会いこそが一生の糧となる。しかも、「教える側が気づいていないような『何か』が最も強く弟子のほうに伝わっていくような気がする」といい、それを受けて甲野は、「『変えてやろう』なんてことを考えて変えられるものなんてたかが知れている」、「優れた指導者やセールスマンというのは、そういうふうにうまく相手を主役に持っていくというところがある」と、教師自身が気配を消すことの大切さを指摘する。さらに、「生身の人間同士のやりとりには、言語化できない、ものすごく多くの量の情報が行き来している」として、昨今のメール人間に苦言を呈する。茂木は、「今の教育でいちばん見逃されているのは、人と人とのつながり、その間に生じる感化力ではないか」と問題提起し、2人はともに「個人としての有能さよりも、コラボレーションできる力」の必要性を強調する。茂木はいう。「学習であろうとなんであろうと、脳に強制しようとする試みはうまくいかない。働きかけはあくまで、自発的に何かをさせるきっかけのような形でなければならいない」と。すなわち、「お膳立てはするけれど、本人の自覚としては自分でやっているように思っているという状況を導き出すような存在」を最良の教師と定義する。

 甲野の主張する「身体が持つ同時並列性」に共感する茂木は、純粋培養ではなく、むしろ「ノイズに満ちた環境」でこそ子どもはバランス良く育つという。2人してマニュアル化する社会及び人間に強い警鐘を鳴らし、「身体」のやせ衰えを危惧する。そして、二項対立的なとらえ方を否定する茂木は、「『詰め込み教育かゆとり教育か』なんていう問いはナンセンスであって、どっちもやればいいに決まっています」と述べ、むしろ考えるべきは、「『人を感化する場であるかどうか』といった、『AかBか』という問題設定とは別のところにある要素である場合が多い」と、問題の所在を指摘する。さらに、「脳にとっては、さまざまな異なるものとの出会いがあったほうがいい。(略)創造性というものは基本的に組み合わせのバリエーション数で決まりますから、いろんな引き出しを脳に持っている人間の勝ちなんです」と述べ、「いい人で、共感できて、自分にいろんなことを教えてくれる人とばっかり会っていたらだめ」と手厳しい。甲野の「『楽しないでやっていける』ということがひとつの体力であり、その体力のもとになっているのが枯れることのない探求心」という提言も含めて、学ぶ意欲や創造的なかかわりがきわめて大切となる音楽科にとって示唆に富む言葉が詰まった章となっている。

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