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Report & Information 2008年8月

GLOBAL (森重行敏)

【BOOK】日本の伝統音楽を伝える価値

久保田敏子・藤田隆則編 (京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター 税込1,800円)

 京都市立芸大日本伝統音楽研究センターによる「教育現場における日本音楽」プロジェクトの報告書が公刊された。17名にのぼる関係者による共同執筆で、日本音楽を取り巻くさまざまな観点から、日本音楽の教育に関する小論文、研究成果がまとめられている。「実践で知る音楽のしくみ」と題された第3章では、民謡、雅楽、謡曲、箏曲、尺八、三味線を具体例とした例が紹介されている。第4章「音楽史への新しいアプローチ」の一例として収録された日本の木琴についての考察も目新しい。貴重な音源が収録されたCDも付録。

【BOOK】八橋検校十三の謎

釣谷真弓著 (アルテスパプリッシング 本体2,000円+税)

 おもしろ日本音楽史シリーズの著者らしく、箏曲中興の祖にまつわる数々の謎解きを楽しく読ませる。従来専門的な論考はあったが、一般にも親しみやすい形のものは初めてではないか。まずはその出身地が磐城か小倉か関西か、正確な生没年など、基本情報から確認。銘菓八ツ橋は検校と関係があるのかないのかという話題も登場。たしかにメーカーによって由緒書の内容に違いがあるのは不思議であった。検校の墓所や寺の過去帳についても丹念に紹介。八橋流のその後などについても触れられている。松代八橋流についても譜例入りで詳しく紹介している。日本音楽史上屈指ともいえる影響力をもちながらも、今なお謎だらけの人物について、我々はもっと知る必要があるのは確か。

SCHOOL (佐野靖)

【BOOK】美術のちから 教育のかたち ──〈表現〉と〈自己形成〉の哲学──

上野浩道著 (春秋社 本体2,200円+税)

 本書は、タイトルからも明らかなように、「美術と教育」について論じたものである。しかし、その内容は、「音楽と教育」を考えていく上でもきわめて示唆に富むものといえる。

 本書の問題提起は、「学校教育における表現教科は、たくさんの可能性を秘めて今も重要な役割を担っている」にもかかわらず、「現実の多くの授業では、子どもの感性に頼った表現教育であったり、実用的な表現を求めたり、上手に表現できるようにという技術主義であったりする。私自身もそのような授業を多く受けてきたし、また同じような授業も見てきた」という、学校の芸術(表現)教育に対する疑問から出発している。また、美しいものに感動したり表現したりする行為は、「心のなかの無意識と意識の両方の層にわたって関係」し、「魂がゆさぶられるとき、それは心の無意識の層とつながっている」にもかかわらず、教育や形成というものが、多くの場合、意識の層での人為的行為として見なされてしまう現実へのアンチテーゼも、本書を支える確固とした信念である。さらに、理論面での人間の美的形成に果たす芸術教育理論の構築の立ち遅れを自覚する著者は、美術のもつ力、すなわち、「人間を解放し、表現によって自由を獲得する力」を生かした教育の哲学で、「従来の教化という人為的教育を変えていかなければならない」と、その決意を明確に表している。表現行為に含まれている心豊かな形成的作用こそ、トータルな人間形成をめざす上で不可欠な作用なのである。

 「心のかたち 形なきこころ」「自然が育む――形成とはⅠ」「社会に生きる――形成とはⅡ」「形と生命力――H.リードの視点」「形なきものと表現」「コミュニティの形をさぐる」の全6章を通して、古今の人間形成論の考察がふまえられているが、中でもその中核をなしているのがH.リードの思想と理論である。単なる造形的・視覚的なものに限らず、音楽的・聴覚的なもの、文学的・詩的なものなど、あらゆる方式の自己表現を包含し、現実への統合された接近方法を形成するものとして「美的」教育を提唱したリード、「美的」ということばに、二つの非常に異なる心理的作用、すなわち、「生命力(vitality)の強調に向かうもの」と「美(beauty)のバランスとハーモニーに向かうもの」が含まれることを歴史的に跡づけたリードに深く影響された著者の論は、言うまでもなく狭義の美術教育にとどまるものではない。

 ところで、「藝」という漢字の語源は、人が屈んで土に木を植える様を表しているという。発達のイメージを植物的生長と動物的成長からとらえ、芸術そのものが本質的に植物的活動であること、また、「伸び伸び育つ」や「すくすく伸びる」「生き生きしている」といった教育の用語も植物の生長に由来することから、芸術活動と教育活動は本質的に共通する性質をもっているとする論も興味深い。

 著者のことばを借りれば、本書は、「表現と形成という行為を軸に教育と学習の層を掘り進んでいって、それぞれの層にみられる豊かな営みを探り当て、それらをもとに教育のかたちをつくりかえることを考察したもの」である。人間にとってなぜ芸術が必要なのか、教育においてなぜ表現は重要なのか、といった根源的な問いをともに考えるための好著である。

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