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Report & Information 2008年6月

GLOBAL (森重行敏)

【BOOK】日本の伝統芸能講座・音楽

小島美子監修 (淡交社 本体3,990円+税)

 伝統芸能全般の入門書は何度も企画されたが、今すぐに入手できる手頃なものは案外少ない。国立劇場の企画による本書は現在各分野で活躍する研究者によってまとめられたもの。計500ページ余りのボリュームで、のべ19人もの執筆者による各編は通読というより、必要に応じて繙くこともできよう。かつてみられたような大家による啓蒙的な内容から、若い研究者の問題意識が変化しているのも当然のこと。明治以降の近代における日本音楽についての章があるのも当然ながら興味深い。伝統音楽は保存のためではなく、未来の音楽でもあることはいうまでもない。なお、舞踊・演劇編も続刊予定。

【BOOK】幽玄なる響き 人間国宝山口五郎の尺八と生涯

徳丸吉彦監修 (出版芸術社 本体3,150円+税)

 1999年に急逝された山口五郎師の生涯をまとめた前半と、25名にも及ぶ関係者へのインタビューでまとめられた書。準備から完成までに4年もかかったというだけあって、丹念な内容となった。アメリカの惑星探査機ボイジャーに地球を代表する音楽の一つとして師の尺八独奏が搭載されていることでもよく知られている。温厚な人柄と深い音楽性については誰も声を揃えるところであるが、アメリカの大学に招かれていた時代のエピソードもいろいろ語られていて楽しめる。何と言ってもコネティカットの小さな町に師のほか小泉文夫、柘植元一、山口修氏らまでが居並ぶ様子は想像するだけでも微笑ましい。急逝の半年前、アメリカで行われた尺八音楽祭での録音も付録として付けられている。

【CD】HANA/maco

(Studio J's Sounds SJSCD-0001 1,575円)

 箏の方向性は2つ考えられる。日本の楽器としての特徴にあくまでもこだわる方向と、それとは正反対にハープに接近する道である。このアルバムはさしずめ後者と言える。決して強い音ではなく、あくまでも歌を活かす透明感がある。何より自らの歌声も邦楽的な発声でなく、透き通った声である。洋楽からの選曲もあり、新感覚の邦楽として抵抗なく楽しめる。正倉院の復元楽器である排簫(パンフルート)の軽やかな音色もよくマッチしている。

SCHOOL (佐野靖)

【BOOK】学ぶ意欲とスキルを育てる:いま求められる学力向上策

市川伸一著 (小学館 本体1,400円+税)

 「夢のような実践を語るだけではなく、それを行うためには、全体としてどのようなバランスを考えなくてはいけないか」を学力低下論争に関わって考えさせられ、「教育のあり方をより基本的に見直した上での、地に足のついた授業や学習環境づくり」こそいま求められていると主張する著者。本書は、5章(「学力と学習をどうとらえるか」「学びの文脈づくり――学ぶことの意味が見える課題と活動」「わかる授業を求めて――『教えて考えさせる授業』を基調に」「家庭学習を含めた学習スキルの育成」「授業外学習支援の充実」)と補章(「対談――『学ぶ意欲を育てる教育とは』」)という構成で、学習や学力の本質論から具体的な授業論、地域教育論まで多様な内容が盛り込まれている。ここでは、以下の3点のみを取り出して紹介する。

 1つは、「習得」と「探究」という2つの学習サイクルの提示。著者によれば、既存の知識や技能を身につける「習得サイクル」(予習→復習→予習)と、自分でテーマを設定し追究していく「探究サイクル」(表現→追究→表現)のバランスを取ること、そして2種類の学習をリンクさせることが重要となる。さらに、「授業だけで、学習が成立するものではない」ことが強調される。「大切なことは、『授業ですべての学習を完結させること』が、必ずしも目標や理想なのではなく、むしろ、『身の周りのリソースを利用しながら自律的に学んでいけるような力をどう育てていくか』だと思います」と。

 2つに、学ぶことの本質的な意義を「『なりたい自己』と『なれる自己』を広げる」ことととらえている点。「なりたい自己」とは、自分がどんな生き方をしたいかという、なりたいイメージの選択肢、「なれる自己」とは、今の自分の延長としていったい何になれそうかという可能性の選択肢である。教師の役割とは、まさに、この「なりたい自己」と「なれる自己」を広げる支援を行うこと。そこから出発して、「子どもに対する社会からの方向づけを持ったもの」でもある教育は、社会で生きていく力、つまり「人間力」につながるような学習を地域も含めて組織する必要があるという。

 3つ目は、「基礎に降りていく学び」の導入。従来の学校教育において大前提であった「基礎から積み上げる学び」(学問的体系にそった系統的な学習)を押し付けるだけでは、なかなか今の子どもはついてこない。目的と意義、必要感を感じて学ぶことができる「基礎に降りていく学び」を系統的な学習とうまくリンクさせることが大切となる。それによって、学びの文脈が広がり、意欲が高まり、学習が深まる。とは言え、「基礎から積み上げる学び」はこれからも大事。「教えて考えさせる授業」という著者の提案からも、それは明らかである。それぞれで「閉じないこと」が求められるのである。

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