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Report & Information 2008年5月

GLOBAL (森重行敏)

【BOOK】国家と音楽・伊澤修二がめざした日本近代

奥中康人著 (春秋社 本体2,500円+税)

 伊沢修二を知らない音楽関係者はいないが、その生涯については案外知られていない。音楽取調掛での業績はもちろんであるが、台湾での教育活動、障害者教育、中国語教育など、その活躍分野の広さゆえに、的確な評価や人物像が作りにくいのかもしれない。アメリカ留学の際に音楽の授業についていけなかったエピソードは有名だが、実は幼少期に当時西洋式軍隊訓練の一環として行われた鼓笛隊で勝れた鼓手であったことも初めて詳しく知った。

 本書は単に伊沢の伝記という側面だけではなく、年代は前後するが、岩倉使節団が聴いた音楽や当時の留学生事情、アメリカにおける伊沢の足跡、そして何より彼が音楽教育で何を目指していたのかという、もっとも肝心の点についての突っ込んだ考察になっている。一般に明治の音楽教育はその途中から徳育重視という政府の横やりが入って理念がゆがめられたという認識があるが、本書が明かす立場は、徳育こそ当初からの伊沢の目的であり、むしろ次第に音楽教育が技術偏重になることを憂慮していた伊沢の述懐からも裏付けられるとのこと。

 いずれにせよ、日本の音楽教育の生みの親である彼の考えを知ることは、これからの音楽教育の理念の立脚点を見極める上でも大いに参考となろう。

【BOOK】唱歌と国語・明治近代化の装置

山東功著 (講談社選書メチエ 本体1,500円+税)

 図らずも伊沢修二が主人公の書物が続くこととなった。こちらは国語学からの立場で、学校における唱歌と国文法の授業が、明治の近代化を象徴する2大科目であるという指摘である。どちらも学制開始当初は開店休業、すなわちまだ何を教えるかという内容すら決まっていなかったという点が共通する。

 明治初期の唱歌は外国産メロディーに江戸時代的雅文調の歌詞というミスマッチが特徴であり、明治末期の尋常小学唱歌に至って、ようやく今なお歌い継がれるオリジナルな唱歌が誕生したことは事実である。その過程で生まれた鉄道唱歌に代表される暗記ものを本書は際物唱歌と名付けているが、確かに国威発揚や修身、偉人伝、公徳から文法暗記のための歌まで、今見ると奇想天外な歌詞のものが次々と作られたことも紹介されている。

 本書でも示唆しているが、当時流行した「文典」(文法書)と「楽典」という日本独自の用語は明らかに同じ命名法であり、この時代の教育界の匂いのようなものが感ぜられる。

【CD】むすびひめ~万葉に遊ぶ

(日本伝統文化振興財団 VZCG-675 3,000円)

 雅楽の田島和枝、中村香奈子による笙と笛のデュオ。助演者の入る曲もあるが、一般には大人数で演奏されるものを小さなアンサンブルで聴くのも興味深い。新作や復元楽器の う(う)や排簫もとりあげている。

SCHOOL (佐野靖)

【BOOK】子どもエスノグラフィー入門 ──技法の基礎から活用まで──

柴山真琴著 (新曜社 本体1,900円+税)

 「特定のフィールドについて記述した報告書」と、「報告書を生み出すための研究方法」という2つの意味で用いられる「エスノグラフィー(ethnography)」。近年、質的研究への関心の高まりとともに、エスノグラフィーの手法はさまざまな分野で注目を集めている。その入門テキストとして企画・構想された本書は、半年の講義を想定して計15の「講」から構成されている。著者によれば、内容的には、エスノグラフィーが子ども研究や発達研究で注目されるようになった背景について心理学を中心に解説した第1講から第3講、エスノグラフィーの主要技法である参与観察・インタビューの技法とその特徴について解説した第4講から第12講、子どもの観察と記録における実践者とエスノグラファーの重なりと違いを整理し、両者が共有している暗黙の前提について検討した第13講から第15講の大きく3つの部分に分かれている。自学自習用教材としても活用できるよう、具体的なインタビューやフィールドノーツなどの実際例が盛り込まれ、さらに各講に「まとめ」と「発展学習のための文献ガイド」が付けられている。授業研究などにも役立つテキストである。

【BOOK】教師 学びの演出家

渡部淳著 (旬報社 本体2,500円+税)

 本書を貫くテーマは「教師=学びの演出家」。ここでいう「学びの演出家」とは、「学習者たちが潜在的にもっている可能性を洞察し、共同の学びの成果としてそれを顕在化する役割を果たすもののこと」であり、その仕事の進め方の特徴は、「学習者が全身を使って課題を追究する参加・獲得型学習のプロセスに寄り添い、伴走すること」である。さまざまな難題にさらされ、「専門家としての成長を容易に展望できない」教師受難の今日にあっても、いやそういう現状だからこそ、「研究的実践者であると同時に実践的研究者でもあるような教師」を育成し、「教育実態にそくした実践の言語化・理論化」を進める必要性を説く著者。20年以上にわたり授業に演劇的可能性を追究してきた経験から編み直された本書は、教師の専門職性をあらためて認識させてくれる。

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