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Report & Information 2008年2月

GLOBAL (森重行敏)

【BOOK】ビートルズと旅するインド、芸能と神秘の世界

井上貴子著 (柘植書房新社 本体2,200円+税)

 インド音楽が世界の民族音楽への興味の入り口になったという例は珍しくないようだ。当欄筆者の友人であるこの道の達人たちにもその例は多く、かの小泉文夫もその例に洩れない。インド音楽のもつ膨大な理論体系と音楽的発達が自他共に世界に誇るべきものであることは勿論だが、実はかつてビートルズがインドに深く関心をもったことが世界中の若者に影響を与えたこともまた、紛れもない事実であろう。

 本書は現地留学経験もあり、インド音楽研究の第一人者である著者による、ビートルズを通じて触れるインド文化の多様な様相の紹介である。ロック少女出身の著者がインドへ旅立ったきっかけも、実は欧米の若者がなぜインドに惹かれるのかを知るためだったとか……。やがて、インドで麻薬などに堕落している彼等の姿に幻滅し、本物のインドを知るべく音楽修行が始まったとの回想も綴られている。

 それまでピアノを習い続けていたせいで、インドの古典歌曲を習っても最初は洋楽風の癖が抜けず、現地での初公演後の新聞に「ウェスト・ミーツ・イースト」と評されという。同じアジア人であるはずなのに受けたこのギャップに発奮して、やがては洋楽風の知的理解ではない、丸ごと覚えるというインド風練習に目覚めたとのこと。そんな著者がインド音楽への飽くなき探求心と、いまだにインドといえばシタールしか連想されない現状への警鐘も含め、ビートルズを話の糸口にして奥深いインド音楽の魅力を熱く語り尽くしている。

【CD】二曲一双

深海さとみ (日本伝統文化振興財団 VZCG-656 3,000円)

 箏曲家深海さとみによる「古典を現代に」のシリーズ2作目。古典曲に新たな手付け(パートの編曲)や構成の工夫を凝らした5曲が並ぶ。

 1曲目の『五段砧』はもともと高低二部の箏による合奏だが、高音箏に代って低音楽器の十七絃のパートを追加。原曲とは上下パートの位置関係が入れ替わった効果を生み出している。2曲目の『岡康砧』は原曲の編成に新たな替え手(対旋律パート)を追加。続く『二曲一双』は『ゆき』と『黒髪』という地歌を代表する2曲を部分ごとに交互に入れ替えながら演奏、さらに後者は歌が二部合唱にアレンジされているという意欲作。そのほかの『さらし』『八千代獅子』も替え手の追加や歌の合唱化などが試みられている。

 ジャンルを問わず原典版が尊重される傾向の進む昨今、原曲に手を入れることはむしろ勇気の要る作業に違いない。しかし解体の試みが行われることの意義もまた認めざるを得ないだろう。「古典を現代に」の意義とは、単なる古典の継承だけでなく、現代における再構築もまた、目指されるべきもののひとつであることは間違いない。

SCHOOL (佐野靖)

【BOOK】文化政策の展開:芸術文化の振興と文化財の保護

根木昭編著 (放送大学教育振興会 本体2,500円+税)

 放送大学大学院の教材である本書は、我が国の文化政策全般を視野に入れ、「文化政策学」の意義や構造、芸術文化振興および地域文化振興、ならびに文化財保護の意義、枠組み、動向等について理解し考察するよう編み直されたテキストである。すでに1990年前後から取り組まれていた文化経済学、文化経営学(アートマネジメント論)に対し、文化政策学(文化政策論)の研究が本格化したのは21世紀に入ってからのこと。深い近縁性を保って並存する文化政策学と文化経営学は、文化経済学の基礎の上に成立する応用分野である。

 文化政策的には、1990年代後半からはNPO法人等による文化芸術への関わりが顕著となり、国(地方公共団体)・文化芸術団体・民間団体等の連携協力による新たな芸術文化支援の枠組みの構築が必要となった。つまり、「公・私の役割分担と相互補完を含む『文化政策』への転換が要請されるようになった」のである。また、分散化傾向の国の文化政策に対し、文化振興を “まちづくり” の中核的内容と位置付ける地域では総合化の方向が見られるという。そうした方向の違いから、「文化政策はある種の混乱をきたしている」ととらえる編者は、隣接諸政策を包括した総合文化政策確立の必要性を強く主張する。

 新しい基本データの提示、用語等の明解な解説、多数の参考文献のリストアップなど事典的な内容も備えた本書は、広く活用可能なテキストとなっている。

【BOOK】アウトリーチ ハンドブック

TANアウトリーチハンドブック制作委員会編 ((株)パンセ・ア・ラ・ミュージック 本体1,200円+税)

 本書は、2001年設立のNPOトリトン・アーツ・ネットワーク(略称:TAN)が中央区を中心としたコミュニティ活動、なかでも重点を置いて展開してきたアウトリーチ活動に関するノウハウをまとめ上げたもの。その特徴は、アウトリーチのつくり方の手順が、「地域のニーズを探る」「受け入れ先と一緒にアウトリーチプランを練る」「演奏家と一緒にアウトリーチプログラムを練る」「アウトリーチ実施に向けての準備/アウトリーチの現場で起こること」「アウトリーチの後の作業と評価」など8つのステップに段階付けられ、各ステップで必要なこと、留意すべきことがまとめられていることである。

 TANアウトリーチのエッセンスが提供されている本書は、アウトリーチの初心者や経験の浅い人たちが具体の方法論を学んだり、あるいは経験豊富な人たちが自らの方法をチェックしたり見直したりするための格好のテキストではあるが、学校の先生方にもぜひ読んでほしいテキストでもある。それは、今後一層(音楽)教師に、地域・家庭と学校をコーディネートする力、地域文化と学校をつなぐ力が求められると考えるからである。

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