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Report & Information 2007年10月

GLOBAL (森重行敏)

【BOOK】ポピュラー音楽と資本主義

毛利嘉孝著 (せりか書房 1,800円+税)

 ポピュラー音楽の研究は近年その層が厚くなっている。大別して社会学としてのアプローチと音楽理論としてのものがあるようだ。本書は前者で、資本主義社会がいかに音楽産業を成立させてきたかをまとめたもの。いわゆるウォークマン現象以降、音楽に対する嗜好が分散し、もはや何がヒットしているのかさえ定かでない昨今、「歌は世につれ」などというモットーすら過去のものとなりつつある。カタログ的な書物は全盛でも、学問の基礎となるべき共通認識の欠如が本書執筆の動機とのこと。それにしても事実上レコードの発明とともに始まるポピュラー音楽の歴史は、CDを経てダウンロードの時代となっている。音楽産業のあり方が変革せざるを得ないことが本書でも指摘されている。

【DVD】東アジアの琴と箏・絃の拡がりと彩り

(教育芸術社 6,000円+税)

 大阪音大制作によるコンサートの記録。復元された古代日本の琴に始まり、中国の古琴、古箏、韓国のコムンゴ、アジェン、カヤグム、日本の三曲合奏が紹介、最後は合同による川島素晴の新作《Kotology》というプログラム。実況とはいいながら、演奏者のアップや撮影角度など、資料としても十二分な内容。同族楽器を比較する催しはかつて国立劇場などで企画されたこともあるが、なかなか実現が難しいもので、貴重な記録となった。何と言ってもこうした機会は観客の興味もさることながら、演奏者同士での刺激やカルチャーショックを産む源泉となり得る。姿かたちが似た楽器ながら、なぜこんなにも表現方法が違うのか。伝統を大切にするというモットーを掲げることはたやすいが、なぜそれが大事なのかを実感することは意外に難しい。むしろ古い伝統に閉じこもるという弊害を生みやすい危険さえある。ところがこうして同族が一同に揃うと、それぞれの個性がどこにあるのかが一目瞭然となる。自らの伝統を活かしながら発展するという一見矛盾する理想への道が、ここではその意味でいとも簡単に提示されるのである。言い方を換えれば、グローバリズムの追求とアイデンティティ確保の必要性という問題が実感されるのは、まさにこうした機会であろう。折角の顔合わせが会場の観客だけでなく、記録として公共に共有されることは何より喜ばしい。今後も同様の企画の発展を期待したい。

SCHOOL (佐野靖)

【BOOK】学ぶ力

河合隼雄・工藤直子・佐伯胖・森毅・工藤左千夫著 (岩波書店 本体1,600円+税)

 小樽の絵本・児童文学研究センター主催によるセミナーの記録を基にまとめられた本書は、講演、全体討議、論考・エッセイから構成されている。それぞれの専門の現場で精力的な活動を続けながら、自由な発想で学び続ける5人によって、学ぶことの楽しさ、醍醐味が語られるその内容は、「『学ぶ』ことを日本式の『お勉強』ととらえ、キマジメにやっているものの、苦しさは強くなるがあまり自分のものになっていない」といった問題状況を克服していくうえで示唆に富むものとなっている。

 例えば、「学ぶ力」についての全体討議では、自らの学びの経験も踏まえながら、学びの根っこに身体性があることをわかりやすく説く「学びと身体」、また、量的で測定できる学力が優先され、「楽しいことがなぜいけないんですか」と言わなければならない教育現場の状況、そうした傾向が家庭にも蔓延している状況に対し、専門的見地から警鐘を鳴らしつつ、「賢くなり合う関係」の大切さが強調されるところ、さらに、音楽を学ぶなかで学者自身がアンサンブルの楽しさに気づいていくくだりなど、大変興味深い内容が提供されている。

 セミナー後、著者たち自ら「老いの学び」の実例として、フルート、ハープによるアンサンブルを披露したという。心温まるなかで、「学びと楽しさ、そしてそれがどのように生きがいにつながっていくか」を再考できるテキストである。

【BOOK】身体のダイヤローグ ――佐藤学対談集――

佐藤学著 (太郎次郎社 本体2,000円+税)

 「あとがき」によれば、大学の教壇に立ち始めた著者は、モノローグでしか語れない教育の言葉の矛盾に気づきおののき、3年間、教育学の失語症となり、断筆の日々を過ごすこととなる。そして、再び教育の言語による執筆活動を開始したのは、「『身体の言語』(身体がつむぎだす言葉)と『経験の言語』(経験がつむぎだす言葉)で教育について語るスタイルを見出したときである」という。本書は、それ以来、「『身体』と『経験』に忠実であることによって、言葉にたいして誠実であろう」と常に努め、さらには「教育の語りに越境性を獲得すること」を仕事の中心的な目標の一つとする著者が、教育学の外で活躍する10名(解剖学者、写真家、宗教学者、詩人、作曲家、中世演劇の研究者、建築家、文化社会学と政治社会学の研究者)と行った対談・座談(8編)を編み直したものである。

 身体と言葉にかかわって語られた「見ること・話すことの手前に聞くことがある」「すれちがいを肯定するコミュニケーションへ」「『自己表現』の呪縛を越える」などをはじめとする数多くのテーゼは、音楽教育にとってもきわめて意味深いものである。また、「芸術の教育は、むしろ技を媒介にしながら感情を抑制していくということを、もういちど大切にする必要があるんじゃないか」という著者の問題提起も重く受け止める必要があろう。

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