CD・DVD・書籍・イベントご紹介

ONKANウェブネット > CD・DVD・書籍・イベントご紹介 > Report & Information > 2007年6月

Report & Information 2007年6月

GLOBAL (森重行敏)

【BOOK】世界は音楽でできている

北中正和監修 (音楽出版社 2分冊 各1,900円+税)

 ワールド・ミュージックという言葉が使われるようになったのは87年のイギリスであるという記事が本書にある。その当時から批判もあったというが、ともあれ以後ちょうど20年、もはや一定の市民権を得たのは間違いないだろう。本書は〈中南米・北米・アフリカ編〉と〈ヨーロッパ・アジア・太平洋・ロシア&NIS編〉の2分冊で、それぞれディスクガイド、アーティスト紹介、コラムなどがちりばめられた多彩な内容となっている。インターネット全盛の昨今、その気になればアクセス可能な情報は山のように溢れてはいる。ただ、だからこそ入り口にたどり着くのが難しいのも事実で、活字メディアの存在理由もここにある。目次を見ただけでも、初めて聞くジャンルや人名にぶつかる。ちょっとした好奇心さえあれば、これらの音や資料はかつてよりずっと容易に見つかるのだろう。そのことは喜ばしいのだが、逆に資料の少なかった時代に感じた熱気のようなものより、すべての価値が同化した不思議な冷静さを感じるのは思い過ごしだろうか。最後に問われるのは、やはりなぜその音楽に惹かれるのかという、自分自身の問題に帰り着くのだろう。

【BOOK】日本音楽基本用語辞典

(音楽之友社 1,800円+税)

 日本音楽について学ぶ際の初歩的な問題の一つが、多岐にわたる用語の混乱であろう。理論より実践を重んじてきた風潮のせいか、演奏者が音階について説明できなかったり、根拠の不確かな楽曲解説がまかり通っているのも事実である。本書はハンディな体裁ながらも各分野の若手専門家による用語集で、最新の研究成果を踏まえた簡潔な解説を特色とする。実際には流派の違いや文字遣いへのこだわりなど、細部にバラエティがあることこそが日本らしい伝統とも言えるが、教育現場や研究上はこうした業績を通じて統一されていくことが好ましいのかもしれない。

SCHOOL (佐野靖)

【BOOK】教育的タクト論――実践的教育学の鍵概念

徳永正直著 (ナカニシヤ出版 3,600円+税)

 教育現実や教育実践と教育理論の関係にかかわって、重要な示唆を与えてくれる鍵概念として「教育的タクト」に焦点化した本書は、全9章の構成。聞き慣れない用語である「教育的タクト」とは、教育の理論と実践を媒介するものであり、状況に応じて臨機応変に対応する能力のことを指す。すなわち、「子どもの予測不可能な反応に、臨機応変に適切に対処して、授業の基本的な状況の保全を可能にする、教師に求められる専門的能力のひとつ」なのである。

 タクト研究に取り組んだムートによれば、タクトの構成要素は、子どもたちの動きを敏感に捉える「繊細な感情」、子どもたちを傷つけないように配慮する「控え目」、子どもたちの反応に自在に対応する「臨機応変さ」、タクトの働きは終始一貫して教師のためにあるのではなく、子どものためにあるという意味での「無私性」の4つである。

 「教育的タクト」という概念にかかわっては、「教える」という行為の発想の転換が求められる。例えば、詩を教えるにあたっては、「むしろ、詩それ自体が感動的な出来事となって子どもを教えているのである。つまり、『詩が子どもを教える』と考えればよい。教師は詩と子どもとの出会いを『控え目』に媒介するだけでよい」ととらえる。とすれば、「子どもたちに提供される資料の精選が最重要課題になる」のである。「詩」を「音楽」に置き換えてみれば、音楽科の授業実践においても、「教育的タクト」が教師に求められる重要な資質・能力であることは明らかである。感性的に働きかける音・音楽を媒介とする音楽科においては、より一層重要な概念となるにちがいない。

 「行為の知恵」「行為のための知恵」「行為の中でタクト」は、理論的な裏づけのない実践の反復によって培われるものではないし、決して無計画な教育活動の肯定や許容を意味するものではない。まさしく計画可能な領域と計画不可能な領域との接点において発現するものであり、「子どもが活きる授業」を構成するために不可欠なものである。

 さらに、ロッホの教師論によれば、教師に求められる専門的な能力は、「表現能力」「関係能力」「活性化能力」「強化能力」、そしてそれらを統合する「自己保持能力」の5つであり、どの能力にも教育的タクトが本質的に関係している。

 理論と実践、計画性と自在性、学習者との一体化と保つべき距離感など、教育における、いわば二項対立的な葛藤を克服するための鍵となる「教育的タクト」。タクト豊かに行為するために、教師は自らを常に「若返らせること」という永続的な課題を担っている。

 もともと音楽で用いられていた「タクト」という語は、「無音の指揮」、目立たない控え目な指揮が実現され、また、指揮者の繊細な感情が尊重されるようになって、「繊細な感情、思いやり、適切な判断」などの意味でも用いられるようになったという。

ページの先頭へ戻る